15話
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「あいつは何をしてるんだ」
「どうやら貴族たちの挨拶をさばききれなかったようですね」
急に人で盛り上がった庭園の一角。呆れたように眺めるリュシオンとは違い、カインは冷静に分析する。その隣では同じくロッタの惨状を目にしたフレイルが顔を引きつらせて立っていた。
ルーナたちは挨拶回りを終えたアマリーたちや両家の夫妻とともに家族団らんを楽しんでいる。そのため三人は遠慮して離れたところにいた。
「ロッタがあんなことになっているのに、エリックはどこにいる」
「彼なら先ほど、ロッタに男性を紹介した後広間に向かいましたよ」
「男?」
「ええ。エストランザ伯爵と同年代くらいの銀髪の男性です」
カインは二人が王妃に挨拶をしてからずっと彼らの動向を気にしていたようだった。リュシオンはそれらしき人物を探したが見つけることはできなかった。
「何者かはおまえに聞いても仕方ないか」
「そうですね。見覚えのない方でした」
そもそもリュシオンに心当たりのない人間をカインが知っているはずがない。彼は再び庭園の人だかりに目を向ける。
ロッタの元に集まった貴族たちは気に留めてもらおうと一斉に話しかけているが、それがむしろ彼女の発言の機会を奪っていた。年の若い貴族令息ならまだ分かるが、中には何十も年の離れた老紳士まで混じっている。リュシオンは彼らのあからさまな行動に思わず顔をしかめる。
「助けに行くか。カイン、おまえも道連れだ」
「なぜですか」
カインは、あの中に入っていくのは気分が乗らないといった様子でリュシオンに尋ねた。
「そうだな。いわゆる噂の分散というやつだ。行くぞ」
返事を聞く前に歩き出した彼に、カインは怪訝な顔をしながらも大人しくついていく。ロッタに話しかけることに必死だった貴族たちも、リュシオンが近づいてくることに気づくと話を止めた。
「そろそろ儀式の時間だ。社交はそのくらいにして、アーチの前に集まったらどうだ?」
リュシオンの言葉に彼らは恭しく頭を下げた。実際には、婚約指輪の交換の儀式までには多少時間があったが、王太子の発言に異を唱える者はいない。次いで彼はロッタの目の前に歩み寄ると、丁寧な仕草で片手を差し出す。
(……取れってこと?)
彼女はリュシオンを呆然と眺め、しばらくしてその手を取った。その行動は正解だったようで、リュシオンはロッタだけに分かるよう小さくうなずくと、彼女とカインを伴ってその場を後にしたのだった。
しばらく無言を貫き通していた三人だったが、フレイルが立っている場所まで移動すると、同時に表情を緩めた。
「助けていただいてありがとうございました」
貴族たちがコソコソと話すのを聞きながら、ロッタは申し訳なさを前面に出したような表情で礼を言う。知らない人しかいないから大丈夫だろうと油断した自分が馬鹿だった。彼女はリュシオンの左手に添えていた右手をそっと離した。
反省と後悔でいっぱいになった彼女の表情を見て、カインは軽く咳ばらいをするとリュシオンに呆れた視線を向ける。
「噂の分散になってます?」
「おまえがいるのといないのとでは重みが違うだろ。『王太子がネグロ侯爵令嬢を誘ったように見えたが、隣にエアデルトの王子もいたしな……』みたいな流れになっているはずだ」
むしろそうならなくては困る。しかし彼は眉を寄せた後、すぐにからかうような表情になった。
「そうでなければ、おまえが俺の代わりをしたか?」
「それはもっとまずいでしょう。『ユリウス王太子の婚約破棄の原因は第二王子では』などという醜聞が流れかねません」
「お二人とももうそれくらいでお許しください」
カインの冷静な突っ込みに、ロッタはますます視線を下げる。話をごまかすつもりだったカインは、自分の発言が尚更彼女を気まずくさせていると知り、「そんなつもりでは……」と言葉を濁した。
「これに懲りたら社交の場では油断しないことだな」
「はい。肝に銘じます」
ロッタは改まった表情でうなずいた。そんな彼らのやり取りを見て、フレイルは僅かに同情をにじませる。貴族付き合いも簡単なことばかりではないらしい。
「さて、そろそろ本当に儀式の時間だ。アーチの前に行くか」
先ほどのリュシオンの発言で、庭園にいた人間はぞろぞろと薔薇のアーチの前に集まり始めていた。ロッタはフレイルと共にリュシオンとカインの後をついていく。
アーチは赤やピンク、白などの薔薇で美しく飾られ、そこから両側に続く薔薇の生垣がぐるりと半円を描いて特別な一角を形作っている。庭園から赤い絨毯がアーチの前まで続いており、その道を開けるようにして人垣ができていた。
アマリーとヒューイは笑みを交わし、赤い絨毯の道を進んでいく。そしてアーチの前に辿り着くと、向かい合って立った。彼らの後ろにはそれぞれの両親が並び、兄弟は招待客と同じように少し離れた場所で二人を見守っている。家族団らんを終えたルーナたちは、ロッタたちのいる人垣の最前列に共に並んだ。
その対面には王妃キーラと、彼女の取り巻きと思われる数人の貴族が待っていた。ロッタは無意識に兄の姿を探したが、多くの招待客に紛れて見つけることはできなかった。