14話
夢小説設定
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貴族に囲まれるリュシオン達を少し離れたところで静観していたロッタは、近付いてきた兄に安心したような笑みを浮かべる。別れてから一時間も経っていないのに、すっかり気が張り詰めていたようだった。
「楽しんでいるかい?」
「ええ。アマリーさんはとても綺麗だし、みんな幸せそうで来てよかったわ。……だけど、やっぱり少し疲れたみたい」
「私も同じだ。アマリーシェ嬢には挨拶したようだね」
「兄様は?」
「さっき行ってきたよ。久しぶりに見ると、すっかり大人になっていて驚いた」
エリックの言い方にロッタは声をあげて笑う。年寄りじみた感想だった。二人が話しているのに気づき、リュシオンはカインを伴って彼に近付く。
「さっきぶりだな、エリック」
「はい殿下。……お会いできて光栄です、カイン殿下。豊穣祭の折は弟とともに礼を失してしまい申し訳ございませんでした」
先ほどの王妃との一幕を、彼も見ていたのだろう。流れるような仕草で礼を取ったエリックに、カインも同じく礼を尽くす。
「丁寧にありがとう。あのときは身分を隠していたこちらにも非がありますのでお気になさらず。ヴィンセント伯爵の噂はエアデルトまで届いています。エアデルト王家とネグロ侯爵家がこれからも良い関係でいられることを願っています」
「光栄です。まだお話ししたいのは山々なのですが、王太子殿下、カイン殿下、妹をお借りしてもよろしいでしょうか」
急な申し出にリュシオンたちのみならずロッタも、エリックの様子を窺った。
(あんなにみんなと一緒にいろって言ってたのに、どういう心境の変化?)
「なぜだ?」
リュシオンは直球で尋ねる。
「王妃陛下にご挨拶をと思いまして。まさかいらっしゃるとは思わず、出遅れてしまったのですが」
「……知らなかったのか?」
「知りませんでしたよ。殿下はご存じだったようですね」
打てば響く受け答えには、少しも動揺の色が見られない。
(本当に知らなかったのか? 確かに公にはしていないが、こいつが王妃が来ることを知らなかった上に出遅れた……?)
にわかには信じがたい状況だ。また何かを企んでいるのかもしれないと、リュシオンは疑いの目を向ける。
「ご都合が悪ければ出直しますが……」
「殿下?」
ロッタは中々返事をしないリュシオンに言葉をかける。何かやることがあっただろうかと考えるが、エリックと立ち去ることに特に不都合はない。困惑気味の彼女を見て、リュシオンは大きなため息をつくと「行ってこい」と、適当に送り出した。二人はリュシオンとカインに礼をして王妃のいる庭園の中央に向かう。
「随分警戒しているようですが、ただネグロ侯爵家の人間だからというわけではないですよね?」
彼らの姿が人ごみに消えた後、カインは小さく問いかける。彼は豊穣祭の時にエリックと話したことがあったが、そのときよりもリュシオンの警戒が強まっていることを感じ取っていた。
「何度か出し抜かれているからな」
「あなたが?」
信じられないといった表情で聞き返すカインに、リュシオンは苦虫を噛み潰したような顔をする。正確には、出し抜かれているようないないような、微妙な後味なのだが、言葉にするのは難しい。
「絶対に何か隠していると思ってつついてもぼろは出さず、近づけば近づくほど『実は何も隠していないのでは』という気にさせる男だ」
「……すいません。つまりどういうことなのかよく分からないのですが」
「正直俺もまだ分からん」
「は?」
「だが、近いうちにおまえも分かるだろう。もしかすると今日かもしれないな」
リュシオンは嫌な考えを振り払うように頭を横に振る。この話題はこれで終わりだと悟ったカインはそれ以上追求することはなかった。