12話
夢小説設定
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幻想的な演出の中、ゆっくりと広間の両開きの扉が開いた。
招待客たちが期待の視線を向ける先には、今日の主役であるアマリーとヒューイがいた。後ろにはそれぞれの両親が続いている。
「姉様、素敵……」
ほうっと呟くルーナに、反論するものは誰もいない。
淡い紅色のドレスをまとい、髪にも同色の花を飾ったアマリーの姿に、招待客から称賛の声とため息が漏れる。隣に立つヒューイは、濃緑のジュストコールに黒いズボンという装いだ。後ろに撫でつけられた髪が、彼の理知的な雰囲気をさらに高めていた。
(エストランザ先生って、あんなお顔立ちをされていたのね)
普段とは違い過ぎる格好に、ロッタは正直な感想を心の中で呟いた。猫背に分厚い眼鏡、ボサボサの髪の格好では、素顔が分からないのも無理はない。
美男美女の二人に、会場の招待客はお似合いだとばかりに頬を緩めた。
「ヒューイさんったら、姉様に視線が釘付けだね」
小さな声でルーナが言うと、周囲にいた皆がうなずいて笑った。
「二人とも実に幸せそうだな」
「ええ、本当に」
リュシオンの言葉に、ジーンは目を細める。
アマリーとヒューイが広間の奥に進むと、それに合わせて照明が淡い色合いに変わる。二人はまず、会場で一番身分の高い者――リュシオンとカインに挨拶するため、彼らに向かって歩いてきた。
「リュシオン殿下、本日はお忙しい中お越しいただき、ありがとうございます」
「カイン殿下も、わざわざエアデルトからお越しいただき、ありがとうございます」
ヒューイが丁寧に頭を下げると、それに合わせてアマリーも礼を取る。
「二人ともおめでとう。エストランザ伯爵は、春の女神を妻にもらったようだな」
「本当だね。アマリー、どうか幸せに」
リュシオンに続いてカインが祝福すると、アマリーは嬉しそうにはにかんだ。それを見守るヒューイの姿は、アマリーへの愛情が隠しきれていない。仲睦まじい二人の様子にロッタは自分のことのように胸がいっぱいになる。同時に、豊穣祭のときに出会ってから今までの思い出が、断片的に頭を過った。
感動に包まれていた彼女だったが、カインとアマリーの言い合いが始まったことにより、一気に現実に引き戻される。普段は勝気ながらも優しいアマリーと、優雅な振る舞いを崩さないカインが目の前で言い争っていることに目を疑った。
「あれは『嫌いの先は好き』とか、『仲良く喧嘩』とか、そんな感じだから」
ルーナがフレイルに説明しているのを隣で聞き、ロッタは一人で納得する。喧嘩するほど仲が良いということなのだろう。
そしてカインとの口論を終えたアマリーは、今度はその標的をフレイルに変更する。
「フレイル、来てくれてありがとう」
「いえ、招待してくださってありがとうございます」
「当然よ! あなたは弟みたいなものなんだから。なんだったらアマリー姉様と呼んでもいいのよ?」
「いや、それは遠慮します」
すかさず否定するフレイルにも、アマリーはめげなかった。ぜひエストランザ伯爵邸に来てほしいと彼を誘う。真面目な顔で告げるアマリーに、フレイルは苦笑しながらうなずく。アマリーが彼を本当の弟のように思っているのと同様に、フレイルもまた彼女を本当の姉のように思い始めていた。
「弟たちが迷惑をかけると思うけど、これからもよろしくね」
「はい」
フレイルは素直に返事をして、珍しく微笑んだ。
「ロッタ! 久しぶりね。しばらく会えなくて寂しかったわ」
「アマリーさん、ご婚約おめでとうございます。それから、エストランザ先生も」
「ありがとう」
今にも抱きついてきそうな勢いのアマリーに微笑み、ロッタは二人を交互に見て祝いの言葉を述べた。ヒューイと知り合いだったことに驚く他の面々に、彼女は簡潔に説明する。
「本当にお綺麗です。お二人の幸せを心から願っています」
「何だかロッタにそう言われるとくすぐったいわ。だけど、ありがとう。わたしが王都にいる間は、絶対に訪ねて来てね」
「そうします」
ルーナは隣に立つユアンの袖を小さく引っ張る。そして耳を寄せた兄にささやいた。
「姉様のところへ行くときは、フレイとロッタも一緒に引っ張っていこうね」
「うん、もちろん!」
くすくすと笑い合うルーナとユアンに、フレイルは訝しげな視線を投げたのだった。