11話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
エリックが立ち去ったのを見て、フレイルはあからさまに胸を撫で下ろした。
「人当たりは良い方だと思うんだけど、兄様が怖かった?」
眉を寄せるロッタに彼はゆっくりと首を振った。
「いや、むしろ驚いた。妹を前にして言うことじゃないかもしれないが、何というか、思った以上に物腰が柔らかかったからな」
「だよねえ。普段はそんなに思わないけど、ロッタと並ぶと時々似てるなって思うときあるよ」
「わたしも思ったよ! 笑った顔とかね」
「そうそう!」
「そんなこと、初めて言われたわ」
外見はもちろん、中身も全然似ていないと言われ続けていたため、ロッタは素直に感動をあらわにする。その様子から彼女がいかにエリックを慕っているかが見て取れて、ジーンたちは黙って眺めていた。
そんな時、彼女たちのもとに、式の進行を担っている公爵家の従僕が声をかけてきた。
「ルーナ様、客間におこしいただけないでしょうか? お客様がおいでなのですが、そのお相手をなさってほしいと、旦那様からのお言葉です」
「お客様の相手? わたしが?」
ルーナの疑問はもっともで、ロッタは怪訝な顔をする。社交界にも出ていない少女が一人で客人の相手をするなど、本来なら考えられないことだった。結局、全員で客間に向かうことになり、ロッタもフレイルと共に引っ張られるような形でついていく。
いくつかある客間のうち最も大きい部屋の前に着くと、従僕はドアをノックした。すぐに部屋の中から低い声が入室の許可を下す。ルーナは客人たちの顔を認識するや否や、思わず声をあげた。
「カイン……!」
カインの姿が目に入った途端、ルーナはこみ上げる感情を抑えるように、その両手を口に持っていった。ロッタも呆気に取られた表情で彼を見る。エアデルトで最後に見てから実に二年の歳月が経っていた。
金糸の刺繍が施された白のコートを纏ったカインは、ルーナに気づきふわりと微笑む。二年前よりさらに高くなった身長や、大人びた顔立ち。飛びついたルーナをカインはしっかりと抱きとめた。
「会いたかった!」
「僕もです。ルーナ、背が伸びましたね」
「うん。カインも。それに大人っぽくなったね」
二人はお互いの顔を久しぶりにじっくりと見た。
ドアの前に立っていた面々は、側で見ていた壮年の男性――ニール侯爵に促されて入室する。エアデルトの宰相であり、カインの後見人でもある彼は、今回のクレセニア訪問に際して共にやってきたようだった。
「久しぶりだな、カイン」
「リュシオン殿下。お久しぶりです」
片手を上げてニヤリと笑う、砕けたリュシオンの態度とは対照的に、カインは優雅な仕草で挨拶を返す。
続いてニール侯爵がリュシオンに礼を取り、ジーンやユアン、成り行きでついてきたフレイルにも挨拶を述べた。
「クラリス嬢、お久しぶりでございます」
「はい、ご無沙汰しておりました」
「二年のうちにすっかり大人になられて、時の流れを実感するばかりです」
かつてユリウス王太子の婚約者としてエアデルトに赴いたロッタだったが、そこで起こった様々な事件に巻き込まれることになってしまった。ニール侯爵には王太子が倒れている間、何かと気にかけてもらったのだ。エアデルト王家と同じように、彼もまた婚約解消に対して一抹の責任を感じている一人だった。彼は感慨深そうにロッタを見て微笑む。
しかしロッタは、今でも時候の挨拶として、ユリウス王太子とは細々と手紙のやり取りをしている。その中でニール侯爵の話題も上がるため、勝手に彼を身近に感じていた。ロッタはそれから一言二言交わすと、皆が集まるところへ合流する。
「もうひとつルーナが驚くことがあるんですよ」
「もう一つ?」
コテンと首を傾げたルーナに、カインはにっこりと笑ってみせた。
「実は、今年の九月――学院の夏季休暇明けに、正式にクレセニアへ留学することが決まったんです。レングランド学院に籍を置くことになりますが、それ以外に研究所や士官学校でも学べるようにと陛下が気を配ってくださって――」
「留学? 本当!?」
カインの話が途中なのにもかかわらず、ルーナが我慢しきれないとばかりに声を上げた。そんな彼女に微笑みながら、カインは続ける。
「本当ですよ。決まるまで話すのは控えておこうと思ったのですが、今日はちょうどいい機会だったので」
感動で瞳を潤ませるルーナの頭を、ユアンは優しく撫でた。その様子に目を細めながら、ジーンはカインに声をかけた。
「――カイン殿下」
「ジーン、それはやめて下さい。出来れば今まで通り、カインと」
「しかし……」
生真面目なジーンに苦笑しつつ、カインはさらに頼む。
「公式の場では仕方ないかもしれませんが、僕は昔のようにジーンたちに接してもらいたい。リヒトルーチェ家の皆は、僕にとってもう一つの家族ですから」
「そうですか……いや、そうだね」
カインの気持ちを慮ってか、ジーンはすぐに口調を改める。
「もちろん、ロッタとフレイルもそれで」
その言葉に、若干の距離を置いて彼らを眺めていた二人は顔を見合わせた。
「ああ、そうだ。俺に対してもそういう対応でいいぞ」
次いでリュシオンがフレイルに言う。
「俺はルーナたちとはそもそも立場が……」
必死に言い募るフレイルの横で、ロッタはうんうんと頷いている。
(いや、おまえはどちらかというと向こう側の人間だろ)
突っ込み不在の空間で、フレイルは何とか反論を試みた。しかしリヒトルーチェ家の兄妹に次々と説得され、さらにはルーナによってロッタが早々に陥落したため、彼は渋々了承したのだった。