9話
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「よく来たわね、バルナド、モルガナ」
クレセニア王妃キーラは、バルナドとモルガナの二人を迎えた。彼女の隣には当たり前のようにベルフーア公爵が腰かけている。
「遠くまでご苦労だったな。なにしろここが一番人の目につきにくい」
彼らが集まっているのは、王都から馬車で一時間ほどの場所にある、王妃の実家、ネグロ侯爵家の所有する邸宅だった。とはいっても、ロッタたちが住んでいる屋敷ではない。侯爵家がクレセニア各地に所有する不動産のうち、王都に近く目立ちにくい邸宅を彼らの密会場所として利用しているのだ。
「それで話とは?」
「実は先ごろ、私共の叔母より遣いが参りまして、一度訪ねてきてほしいと言われているのです。ただ叔母はレザングの北、オジール王国にいるため、訪ねるとなればしばらく留守にすることになるかと」
「なんですって?」
バルナドの言葉に、キーラは鋭く声を上げた。ベルフーア公爵も彼女と同様に深いそうに顔を歪める。
王太子リュシオンを失脚させるため、キーラたちが目を付けたのは、彼の強力な後ろ盾となるリヒトルーチェ家の末娘ルーナだった。彼女を襲う計画が失敗してから一年。そろそろほとぼりも冷め、いよいよ新たな計画を進める手はずになっていた。
邪魔者になりそうな姉も学院を卒業した今が、まさにルーナを襲う好機。だが、バルナドとモルガナがクレセニアを留守にしてしまえば、計画そのものが延期になってしまう。
「申し訳ございません。ですがオジール王国にいる叔母の夫は国の重鎮。顔を出さずにいて、いらぬ憶測を呼ぶのは得策ではないと思いまして」
クレセニアの南方にある小国の一つ、オジール王国。かの国はヴィントス皇国と接しており、皇国と仲がいいとは言えないクレセニアとしても動向が気になる国の一つだ。そのような背景からオジールにはクレセニアの外交官が駐在している。万一バルナドの叔母がそこに問い合わせをした場合、それをきっかけにバルナドについての調べが入る可能性もある。それは彼らにとって都合の悪いことだった。
そしてバルナドは追い打ちをかけるように古代遺跡の話を持ち出した。
権力者たちが価値を見出すのはいくつかの魔法文明と呼ばれる時代の遺跡。その遺跡で発掘される
「はずれ、ということもありえますが、それでも確かめるほうがいいかと。それに、モルガナの見立てによれば、行く価値が十分にあるらしいのです」
「本当なの!?」
「はい、陛下」
それまで黙っていたモルガナは、キーラの問いにこくりとうなずいた。モルガナの宣告は、キーラの中では絶対だ。彼女はすぐに了承の言葉を口にする。
「ご考慮、ありがとうございます」
バルナドは恭しく礼をすると、そのまま席を立つ。
「それでは陛下、わたくしたちはこれで失礼させていただきます」
「帰ってきたら、すぐに連絡を寄越しなさい。追って指示を出すわ」
「はい。かしこまりました」
バルナドとモルガナが部屋を出ると、キーラは隣に座るベルフーア公爵へと甘えるようにしなだれかかった。
「バルナドたちがオジールに旅立つのは仕方ないが、その間なにも出来ないのは面白くないな」
ポツリと呟いたベルフーア公爵に、キーラも小さくうなずいて同意を示す。
「そうね。……そういえば、近々好機があったかもしれないのに」
「好機?」
怪訝な様子で聞き返す公爵に、キーラは得意げに答える。
「リヒトルーチェの上の娘が婚約するそうよ。警備の厳しい公爵邸といえど、多くの人間が出入りする婚約式の時なら、手が出しやすいと思わない?」
「そうれは確かに好機だな。で、娘の相手とは?」
「エストランザ伯爵と聞いたわ」
「ほう……これはまた」
国政には携わっていないが、歴史のある名門貴族。それに加え地方貴族に顔が広く、今までリヒトルーチェ家と距離を置いていた貴族たちも、エストランザ伯爵を通じて関わりを持つ危険があった。彼らにとってはこの上なく厄介な相手である。
「公爵家令嬢の婚約式ならば、王族が出席したとしても不思議はない。なんといっても国王の側近の娘、そして国王が後見する娘の姉だからな」
キーラの頭ではモルガナの言葉と公爵の誘いがせめぎ合う。しかし彼女の権力欲は、モルガナの言葉の恐怖を上回った。
「上手くすればその場にいるリヒトルーチェやリュシオン、さらには国王をも一気に排除できるじゃないか」
「ふふふっ、その通りだわサイアス。バルナドは慎重すぎるのよ。そんなまだるっこしいやり方をしなくても計画は実行できると、見せつけてやればいいわ」
見つめ合い、
「それじゃあ、計画の成功を願って……」
杯は軽い音を立てて重なり、二人は同時にそれをあおったのだった。