1話
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最初に上がったのは次期後継者についての声だった。エリックは数日間生死の境をさまよった末に一命を取り留めたものの、まだ予断を許さない状況が続いている。
その点ランデンはどこから見ても健康優良児であり、レングランド卒業をこの冬に控えた今なら後継者として育てることも可能である。一方彼の人柄や態度を鑑みると、自分たちの利益が失われてしまう恐れがある。その点ではエリックを継続して後継者として扱う方がまだマシかもしれない。
次に上がったのはロッタについての声だった。ユリウス王太子との婚約が解消されたことに対する批判、それをある意味好機だと捉える意見。
今までは婚約の事実とエリックの妨害によって下手に手出しができなかった。しかしそれらが同時になくなった今、彼女を利用しない手はない。ただロッタは弱冠十四歳。社交界に出すのは時期尚早だった。
別邸には見舞いと銘打った様子見の貴族たちが連日訪れた。ランデンは彼らのどんな言葉にも耳を貸さず、時に別邸から蹴り出す勢いで追い返していたため次第に彼を目的とした来訪者は少なくなっていった。
しかし彼がレングランドにいる間、病床のエリックとロッタだけになったころを見計らって訪ねてくる貴族は後を絶たなかった。特に隙あらば縁談を持ち込もうとする貴族たちの対処は一番苦労を要するところだった。
季節は巡り、クレセニアの王都ライデールにも夏がやってきた。この時期になると貴族たちは避暑や領地運営のためにこぞって王都を去る。エリックの調子も随分良くなり、取り巻きの貴族たちも一旦諦めたのか大人しく領地に戻っていった。
黒と金を基調とした、冷たさを感じるネグロ侯爵の別邸。芸術的かつ生活感のないその屋敷は夏にはほどよく涼しげな印象を与える。所々に設置された
「今日はいい天気よ。雲一つない青空だし、いい具合に風も吹いてる」
温室で栽培したバラを部屋に飾りながらロッタは振り向いてそう言った。開け放たれた窓から差し込む光が彼女の髪を金色に照らす。視線の先には寝台に横になったエリックが、彼女の方を向いて微笑んでいた。
「そうみたいだね。ロッタの顔を見ればわかるよ」
「そう? 暑くなったら言ってね、窓を閉めるから」
「綺麗だから閉めてほしくないな」
その言葉に彼女は外を見る。
「空が?」「ロッタが」
しかしすぐにまた兄を振り返った。
「兄様って、そういうところ、もっと別の女性に発揮した方がいいと思うわ」
エリックはそれには答えず優しく微笑む。
「だけど何を言おうと今日は安静にしてなきゃだめ。外出は以ての外だし、誰か訪ねてきても追い返してね」
「手厳しいな」
「……ねえ、兄様、お願いね」
彼女は不安げにエリックを見つめる。窓のそばから寝台に近付くと、丸椅子には座らず彼を見上げるようにしゃがみ込んだ。晴天には不似合いな暗い表情。彼はいつも通りにロッタの髪を撫で、暫くして口を開く。
「約束する。だけど私からも一つ」
「……なに?」
「そういうところ、別の男に発揮しちゃいけないよ」
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