5話
夢小説設定
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二人は無言で廊下を歩いていた。荘厳な装飾が施された廊下に、二人の足音が冷たく響く。後ろを付いていく兵士や女官は、余りの音の無さに顔には出さずとも気まずさを漂わせている。
「何とか言ったらどうだ、ジーン」
「何をですか?」
それは唐突に発せられた言葉だったが、ジーンは飄々とした態度で受け止めた。周りからすれば彼の返事は妥当なものに聞こえる。しかしリュシオンには彼が自分をからかっているのが分かっていた。
「分かってるだろ」
「さあ」
「おい」
「……殿下のおっしゃったことは妥当ですし、ロッタにはあれくらい言わないと効果がないという判断も間違っているとは思いません」
リュシオンは無言でジーンを見た。彼は本心からそう思っているようで真剣な顔を前に向けて話し続ける。
「わたしたちほど現状を把握できてはいないでしょうが、彼女は頭がよく回ります。釘を刺しておかないといつ一人で行動に移すか分かりませんからね」
「ああ。俺たちに話があると言った時点で、それなりの確信を持っているということだ。言うなら今しかなかったが……」
「しかしまあ、第三者の視点から見ると絶妙に噛み合っていないのがよく分かります。池に浮かんだ木の葉を引き寄せようとして、逆に遠ざかっていくような面白さがありましたが」
リュシオンは彼女の安全を最優先して判断を下したが、ロッタは恐らく拒絶されたと思っているだろう。言い方という点において彼は致命的だった。ジーンは笑いながら軽口をたたく。
やはり面白がっていたか。リュシオンは苦虫を噛み潰したような顔をした。しかし彼の例えは言い得て妙だった。
エアデルトまでの道中にしても、王城に着いてからも、リュシオンはロッタとの距離感を計りかねていた。今までは相手が距離を詰めてきたので、彼が人間関係を考える必要は少なかったのである。周りにいるのが社交性のある人間ばかりだったのも大きい。ともかく、すり寄ってくるわけでも積極的に仲良くなろうとするわけでもない、ロッタのような人間に対する経験値は高くなかった。
その点、ジーンは彼女とほどほどに仲良くなっているようである。
(公爵の影響か……? 本性を知っている人間にはむしろ胡散臭さしかない笑顔がロッタにも効いているのか?)
リヒトルーチェ公爵と同じく、ジーンもまた穏やかな物腰と輝くような笑顔で男女問わず信奉者を増やしていた。
「今何か失礼なことを考えませんでしたか?」
「いや。別に」
「そうですか。ならいいですが」
リュシオンは背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
「ともかく、これでロッタは暫く大人しくしているだろう」
「ええ。その間に私たちは出来ることをしましょう」
ジーンは暗い顔をして下を向いていたロッタのことを思い出す。間違っていたとは思わないが、多少なりとも傷つけてしまったのは確かだった。すべてが終わったらしっかり事情を話そう。彼は心の中で小さく決意した。
まずは、宝石細工の調査からだ。