5話
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鐘楼の鐘の音が響き渡る中、その場に馬を連れた男たちが現れた。彼らは先に到着していた騎士の元へ歩み寄ると、片手を上げて敬礼する。
今回の旅には先日ニール侯爵が約束したように、侯爵直属の部下六人が同行することになっていた。その隊長は先ほど敬礼を受けた騎士、ナイジェル・バルトという准貴族である。彼はニール侯爵が片腕として信頼する人物で、くすんだ金髪と堀の深い顔立ちのいかにも武官といった男性だった。
彼は気を利かせてルーナたちとは離れた場所に待機していたが、護衛の到着を確認すると彼女たちのところへ近づいてきた。
「リュシオン殿下、皆様、ご足労いただき感謝いたします」
ナイジェルは短く口上を述べる。リュシオンが同様に短く返事をすると、彼は困った顔で話を続けた。
「実は皆様にご説明しなければならないことがございます。サム」
彼は後ろに控えていた部下の名前を呼ぶと説明を促した。サムと呼ばれた兵士はリュシオンに敬礼をしてから話し始める。彼によると旅に同行する予定だった兵士の一人が、突然の腹痛により同行できなくなったということだった。
当然リュシオンはそのことに異を唱えたが、ナイジェルの懇願によって渋々引き下がるほかなかった。
「リュー……リュシオン殿下。わたしは大丈夫です。すぐに戻ってきますからどうかそれまでお待ち下さい」
黙って成り行きを見守っていたルーナは、そう言ってリュシオンの手を握りふわりと微笑んで見せた。
「わかった。気を付けて行ってこい」
「はい。行きましょう、ナイジェルさん」
二人のやり取りを見ていたロッタはそっとジーンの様子を窺った。先ほどまではそんな素振りを見せなかったとはいえ、妹が一人で旅に出るのはやはり心苦しいだろう。しかし彼はいつも通り穏やかに彼女たちを見ているだけだった。
馬の駆ける音が聞こえなくなるまでロッタはルーナの行った方を眺めていた。リュシオンやジーンと同じく彼女も、ルーナなら『
彼女は詰めていた息を吐く。次いで気持ちを切り替えるように目を閉じる。再び薄茶色の瞳が見えたころにはすっかり心配の色はなくなっていた。問題はここからだ。ルーナが自分の出来ることをしに行ったように、ロッタも自分の出来ることをしなければならない。
彼女は普段よりも多少勢いをつけて隣にいるリュシオン達の方を向いた。二人は急にこちらを向いた彼女を何事かと無言で眺める。しかし決意のこもった瞳を見てすぐに内容を察した。
「リュシオン様、ジーン様、少しお時間をいただきたいのですがよろしいでしょうか」
「……その前に、一つ言っておきたいことがある」
リュシオンの言葉に出鼻を挫かれたロッタはポカンとした顔で彼を見た。
「エアデルトは予断を許さない状況だ。おまえは余計な詮索をせずに部屋で過ごせ」
ラピスラズリの瞳が鋭く彼女を捉える。エアデルトに向かう途中に見た優しい色は全くなく、明らかな拒絶にロッタはたじろいだ。
「ですが……」
「迂闊な行動はかえって自分の身を危険にさらすことになる。それだけでなく外交問題に発展するかもしれない。黙って大人しくしていろ、分かったな」
「……。はい」
有無を言わさない口調にロッタはそれ以上反論できなかった。打ちひしがれたように下を向いて、小さく返事をする。リュシオンは彼女の様子に構わず踵を返して歩いていった。ロッタは地面を見ながら、程なくしてジーンが立ち去るのを感じた。
余計な事だったのだろう。しかしリュシオンがあれほどまでに突き放すとは予想できなかった。陽の光が彼女の髪に当たって頭を熱く照らす。どれくらい時間が経ったか分からないほどロッタはその場に佇んでいた。
(大人しく、しておくべきよね)
一抹の寂しさを覚えながら、しばらく経ってようやく頭を上げる。そろそろ侍女が様子を見に来てもおかしくないころだった。
「兄様が言ったように逃げるし、隠れるし、助けも呼ぶ。それでいいんでしょ」
自分を納得させるように呟く。誰の返事を待つこともなく、ロッタは踵を返した。