4話
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ルーナが出発する日。陽が昇ったばかりの早い時間だったが、城の前庭にはルーナと護衛の騎士と思われる体格の良い男性、そして一行を見送る人々が集まっていた。
ロッタが前庭に歩いていくと衛兵は片腕を体の前に掲げて挨拶をした。
「ネグロ侯爵令嬢でございますね。ルーナレシア様のお見送りでしょうか?」
「ええ。出発までにまだ時間はあるかしら?」
「もちろんです。どうぞこちらへ」
衛兵は丁寧な受け答えをする彼女に安心したのか、硬い表情を多少柔らかくして案内した。ルーナとリュシオン、ジーンの三人は話し込んでいるようで、少し距離を置いた場所に騎士の姿も見える。しかしまだ全員が揃っていないためか出立前にしては緊張感のない空気が漂っていた。
ルーナが彼女の姿に気づいたところで衛兵は元の持ち場へ戻っていった。ロッタは三人に近付いて一礼をする。
「おはようございます。お二方はお久しぶりですね」
「そう言えばしばらく会っていなかったな」
「おはよう。何も変わりはなかったかい?」
ロッタは二人の反応に思わず苦笑を漏らす。予想はしていたが、ここ数日は確実に彼女の存在を忘れていたのだろう。とはいえ一番大変な状況に陥っているのはルーナだ。彼らがルーナの身の安全とエアデルトで起こっている一連の出来事の解明に力を注ぐのは当然だった。
しかしルーナは別の意味で二人の様子を見守る。
(さすが兄様とリュー。『
『神木の実』の話は、実際にはルーナが風姫から教わったものだった。しかし彼女は二人に精霊使いであることを告白していなかったため、その情報はシリウスとレグルスからもたらされたことにした。そしてニール侯爵に説明する際に、今度は二人が、魔法遺跡から見つかった古書に記されていたことにしたのだった。その場面を間近で目撃してからというもの、彼女はリュシオンとジーンが意外にも話をでっちあげる才能があると密かに判断していた。
ルーナが旅への同行を決めた日、三人はロッタをこの問題に巻き込まないことに決めた。遠方に赴くルーナとは違い、ロッタは宮中に留まることになる。王妃の不興を買えば命までは取られずとも安全を保障できるとは言い難い。
『きっと私たちの話を聞けばロッタは力になろうとしてくれるだろう。だからこそ何も知らせない方がいい』
ルーナは数日前のジーンの言葉を思い浮かべる。ロッタの安全を確保するために、リュシオン達はそれから周りに悟られないよう彼女の護りを固めていた。恐らく彼女も気づいていないだろう。
「ルーナ様、どうかお体に気を付けて」
乗馬服をやたらと可愛らしくしたようなルーナの格好に、ロッタは首をかしげる。しかしすぐに気を取り直すと彼女の頭の位置まで身をかがめて、柔らかな声で話しかけた。
「ロッタ、もうこの間みたいに話してくれないの?」
思いもよらない返事に彼女は一瞬戸惑いを見せる。
「あれは……。侍女が傍にいたからです。お忘れください」
「だけど嬉しかったよ。何だか距離が近づいたみたいで!」
「何の話だ?」
顎を引いて怯んだ様子のロッタにリュシオンは興味を持ち、笑いながらルーナに問いかける。ルーナは、数日前にロッタが敬語を外して会話をしてくれたときのことを嬉しそうに話し出した。ロッタは彼らに気づかれないように後ずさる。
「ジーン様……」
「何だい?」
「少しだけでも良いのでわたくしの味方をしていただけませんか? 何故だか分かりませんが恥ずかしいです」
マティス卿の娘という設定上、必要なことだからそう振舞ったのに、このままだと日常的にあの話し方を要求されそうだった。加えてルーナとリュシオンが組むと厄介なのは明白である。
「だからね、わたしはもっと親しみを込めてロッタと話したいの」
「なるほどな。というわけだそうだが?」
ルーナの純粋な視線と、リュシオンのいたずらっぽい視線が一斉に彼女を捉える。突然の流れに困惑すると同時に、リュシオンに対しては悔しさが湧き上がってくる。視線を避けるようにして彼女は目を細めてジーンを見た。目で必死に『何とかしてください』と訴えた。
「……じゃあここは間をとって、ルーナと二人の時は砕けた口調で話せばいいんじゃないかな」
ジーンの言葉にルーナはパァッという効果音が付きそうなほど表情を明るくする。一方でロッタは呆然と彼を見た。
(それは全然『間』じゃない)
ひたすらルーナに甘い沙汰だった。
しかし彼女の喜びようを目の前にして、「いやそれはちょっと……」などと言えるほどロッタは冷徹ではない。ネイディアに対してもそうだが、彼女は年下の無邪気な子供に非常に弱かった。