4話
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「しかしヘクトル様がお二方を害することは不可能です。そもそも国王陛下がお倒れになったときは、まだ王宮に上がってすらいなかったのですから」
「ええ。それに王太子殿下の襲撃も恐らく彼一人の力では難しいでしょうね。だけどよく考えてみて。ヘクトル様の後見はオリバレス子爵よ。子爵は王妃陛下のご信頼が厚いと聞く。何をするにも動きやすい立場ではないかしら」
閑静な庭園の真ん中でロッタとフィーネは話し合っていた。傍から見ると、お嬢様と侍女が自然を眺めていかにも教養のありそうな話をしているように見える。しかし実際の内容は第三者に聞かれたらそれなりに問題になりそうな推理である。二人はそれを承知の上で盗聴を警戒して敢えて庭園で話をしていた。
「しかしそれでは王妃陛下も関わっていらっしゃるということになります。そうなるとやはり王太子殿下の件のつじつまが合いません」
「そこで問題を二つに分けてみるの。最終的に得をするのがヘクトル様とオリバレス子爵なら、国王陛下がお倒れになった時点で得をする人間は誰だった?」
フィーネは眉根を寄せて押し黙る。口にするのもはばかられるが、それは確実に王妃である。彼女は国王の愛妾と庶子に並々ならぬ恨みを抱いており、国王が倒れたことを好機として存在の明かされた庶子を消したいと思っていたはずだ。
「つまりお嬢様は、ヘクトル様とオリバレス子爵がはなから王妃陛下に反意を抱いて近付いたとお考えなのですね」
子爵は王妃に抜擢されるまで、一介の小貴族だった。とても国王に近づける立場ではない。ヘクトルを王座に据えたければ、国王を害したい人間と手を組む必要がある。そこで王妃に目を付けたと考えると、国王が倒れた後に子爵が独断で王太子を襲撃してもおかしくはなかった。
「だけど不可解なのは、王妃陛下が子爵の連れてきた庶子をすんなりとお認めになったということよ」
彼女はそれが一連の事件を解く鍵だと直感していた。しかし考えれば考えるほど話が複雑に絡まっていく。
(そこに、カインの失踪や、王宮の淀んだ空気の原因もきっとあるはず……)
ロッタと共に考え込んでいたフィーネははたと動きを止める。次いで、庭園を眺めながらも心ここにあらずといったロッタの横顔を見た。
「お嬢様」
「……どうしたの?」
フィーネは純粋に自分を見つめるロッタを見ていると空恐ろしい気持ちになった。心に芽生えた不安は自覚した瞬間に大きく膨らんでいく。
「これはお嬢様が思っていらっしゃる以上に危険な問題かもしれません。王族の方々のみならず、周りを取り巻く貴族たちも今回の事件に一役買っているのでしょう。どうか、不用意に深入りなさいませんように」
ロッタは彼女の言葉には答えなかった。関わらないことが自分の身のためなのか、関わることで結果的に自分を守ることになるのかは今の彼女には分からない。それは誰にも分からないことだろう。しかしせめてリュシオンたちの手を煩わせたくはないと彼女は思っていた。
『逃げろ。隠れろ。助けを呼べ』
出発前にランデンが言っていた言葉が今更ながらに思い出される。