3話
夢小説設定
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ロッタは長い廊下をゆっくりと歩いていた。しばらくすると右に直角に分かれた廊下が見えてくる。この城はどこまでも硬い作りになっていて、全体的に角張っているのだ。ジーンたちにはネグロ侯爵邸よりよほど素敵だと言ったが、数日過ごすうちに確かに居心地が侯爵邸に似ていると感じるようになっていた。別邸ではなく本邸のほうである。
彼女はそのまま右に足を進め、庭園の入り口に着くとためらいなく外に出る。彼女がほとんど外に出られないことを知っているためか、後ろに控える衛兵たちもその様子を咎めることはない。
「フィーネと話がしたいの。戻るときには声をかけるわ」
庭園は見晴らしがよく、ロッタたち以外誰もいなかった。侍女や衛兵たちは一礼して庭園の入り口の方へ移動する。
「いつもあんなに大勢に付いてこられては気が休まらないわ」
肩の力を抜いて気軽に話しかけるロッタに、近くに残っていたフィーネも表情を緩める。久しぶりに外の空気を吸ったからか、ロッタは最近見ることのなかった穏やかな顔をしていた。
「そんなことをおっしゃるのはお嬢様くらいなものです。わたくし、貴族のご令嬢は大勢の人間にかしずかれるのをむしろお喜びになるものだとばかり思っておりました」
「それは、まあ、人によるとしか言えないわね」
ロッタの知っているご令嬢はそんなことはないが、彼女たちが一般的な貴族令嬢だとは言えない気がする。アマリーもルーナも、貴族令嬢にしては人が好すぎると思うところが多々あるからだ。
「それはそうと、先ほどの話、どう思う?」
彼女の漠然とした問いかけにフィーネはどう答えたらいいものかと逡巡した。そもそも二人の話を聞いていて、内容に含みがありそうだとは思っても裏の意味まで彼女に読み解けるはずもない。そんな彼女の心の叫びを察したのか、ロッタは再度口を開く。
「ルーナに秘薬を取りに行くよう命じたのは王妃陛下でしょう?」
「はい。そのように伺っております」
「王妃陛下は彼女を信用しているわけではない。むしろ彼女を疑っているからこそ、取りに行かせるわけよね。あなたから見て、陛下は嫌疑をかけている人間をそのように扱いなさる方なの?」
フィーネは彼女の質問の意味がようやく分かったような気がした。
「陛下ならそのようなことはなさらないでしょう。ニール侯爵か、もしくはオリバレス子爵の口添えがあったものと思われます。しかし王太子殿下の命運を握るにしては警護が手薄すぎるとは思っておりました。何か意図があるのかもしれません」
「意図……」
それは誰の意図なのか。ロッタにはまだ分からなかった。しかしルーナと会ってはっきりしたことは、彼女が呼んだ『賊』の名前は恐らく……。
「フィーネ、この問題は大きく二つに分けられるはずよ」
「二つ、ですか?」
「ええ。国王陛下の病と王太子殿下の襲撃。これは全く別の意図で行われたものよ。だけど、全体を見ると目的ははっきりする」
フィーネに話しかけるようでいて、その声はひとり言のように小さかった。フィーネは彼女の言葉を何とか聞き取り、二つの問題だけに焦点を当てる。
(国王陛下と王太子殿下、お二人がお倒れになった今、最も権力を握るのは王妃陛下。だけど王妃陛下が王太子殿下を害するとは思えない。陛下の次に得をする人間は……)
無言で考え込むフィーネをロッタは静かに見守った。遠くから聞こえてくる鳥の声だけがその場に響く。すると唐突にフィーネが顔を上げロッタの方を見た。
「お嬢様はこの王宮にいらっしゃるもう一人の御子の話をご存じでしたか」
「やはり、あなたが考えてもその結論になるようね」
国王が倒れる前に突然発表された庶子。そして彼は国王が倒れた直後に姿を現わした。ヘクトル・ロセットという名で王宮に滞在しているが、彼が第二王子として迎えられるであろうことは周知の事実だった。
今回の騒動で得をする人間は第一には王妃。そして次点はヘクトルである。ロッタは当初、自分の偏見からその結論にたどり着いたかもしれないと思っていた。しかしフィーネの反応を見て確信に変わったのだった。