21話
夢小説設定
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逸話はどれだって恋に落ちるのが早いものだ。しかしリュシオンはロッタが語ったその物語に突っ込まずにはいられなかった。
「恋に落ちるのが早すぎるだろ」
「それは言わない約束です」
「そうだよリュー」
「だが色々突っ込みどころがだな……」
いくら子供だましとはいえ、いやだからこそ、ブライト将軍をモデルにするならもう少しひねりようがあったのではないかと思ってしまう。
「だけど、レゼア湖とかベルデの森の辺りということは、私たちが行ったところの近くだね」
「そうなんです。もう少し北に行くと伯爵領だそうですよ。今は王室の直轄地になっているそうですけど」
「確かにあそこは田園風景が広がるのどかなところだった」
ジーンはレブン村を思い出したのか、遠い目をして感慨深そうにうなずく。リュシオンは顔をしかめて窓の外を見た。
このひと月王城で過ごしていた彼を置いて、ルーナはロズワルド、ジーンとロッタはレブン村やオリバレス子爵領に旅をした。あの状況ではそうするしかなかったと分かってはいるが、分かっていたとしても悔しい。彼はいつかジーンがロッタに言った通り、外に出たがりなのであった。
ロッタはまた別の心境で外を見る。見覚えのある城門が随分近くまで迫っていた。クレセニアの王都ライデールの城門だ。
一カ月が体験したことのないくらい長かった。それと同時にこの旅はロッタを能力的にも精神的にも成長させてくれた。国境辺りまでは気を張り詰めていたリュシオンとジーンも、その後は張り詰めた糸を切ったかのように身体の力を抜いている。馬車の中は眠気と、落ち着きと、安心によってどこまでも緩い雰囲気を放っていた。
やがて王城に着くと、そこには出発の時と同じように多くの人間が出迎えのために集まっていた。一番に飛び込んでくるのはネグロ侯爵家の馬車。しかしそこにはランデンの姿しかない。
(エリック兄様は政務かしら? あまり根を詰めすぎないでほしいけど)
ロッタたちの乗る馬車を筆頭に、三台の馬車は次々と前庭に停車した。王太子が降りると貴族や官吏たちは一斉に首を垂れる。それから少しばかりリュシオンが演説し、派遣団は無事解散となった。そのころを見計らってランデンが彼女たちに近付く。
「王太子殿下にご挨拶を」
「……ああ。ランデン、あまり叱ってやるなよ」
リュシオンの言葉にロッタは自分が叱られることをしていたのだと今さらながらに思い出す。そして途端に慌てだした。
「わたしがあんな行動を取ったのは広く見れば正当防衛だってこと、ちゃんと説明するから。……兄様? どうかしたの?」
しかし彼女が何を言っても険しい顔を崩さない。普段なら怒鳴るなり殴るなりするはずなのに。ロッタはランデンの不自然な態度に一転して不安な表情で彼を見る。
「いいか。落ちついて聞け」
いよいよランデンらしくない発言に、それまで様子を見守っていたリュシオンやジーンでさえ彼を訝しむように見つめる。
「昨晩、兄上が倒れた」
――その瞬間、ロッタは時間が止まったような感覚に襲われた。拍動だけが耳に残る。
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