21話
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その国は、精霊使いだった初代王妃を聖女と崇め、広く精霊に親しむ国だった。一般的には未知の存在と言われている彼ら・彼女らの研究も盛んであり、精霊に関する多くの伝承、物語が民の間に浸透している。その中でも『将軍と
レゼア湖とメイデル山脈に囲まれたのどかな田舎町に、ある男が住んでいた。その男は剣術に天賦の才を持っており、本人も武芸を好んでいた。
あるとき、彼は少し遠出をしてベルデの森に足を踏み入れた。その森には多くの獣と魔物が住んでおり、木こりや農民が行ったきり帰って来ないことが何度かあったからだ。
森を深くまで進んでいくと、案の定、魔物は餌を求めて襲い掛かってきた。しかし彼は得意の剣術で一振りで倒してしまった。さらに進むと今度は狼の群れに出会った。彼らの連携に少々手こずったものの、男はやはり軽く倒してしまった。
森の最奥、獣たちの声も聞こえない深い場所に男は泉を見つけた。それは水底から青い光を放ち、水面は膜を張ったように波一つ立っていなかった。そして泉の対岸には世にも美しい女が眠っていた。
男はその女を見た瞬間、雷に打たれたように恋に落ちた。頭から足の先まで人間とは思えないほど美しく、儚かった。女は人の気配を感じて目を覚ますと、そのまま森の中へ消えてしまった。
男はそれから何度もベルデの森に足を運んだ。魔物を倒して、獣を倒して、やっと泉にたどりついても女に会えたのは数えるほどだった。しかし時が経つにつれて女は男に心を開くようになった。
男は初めて女の声を聞いた。初めて女に触れた。そうして年月が経った頃、女の正体を知ったのだった。
男はそれでも女を愛した。彼が『愛している』と言った瞬間、彼女は男の愛をもらい受けたのだった。
あるとき男の噂を聞きつけ、国王が彼を王宮に招いた。これから戦争がある。ぜひともそなたに将軍を務めてほしい。国王は次いでこう言った。
戦争に勝った暁にはそなたに何でも授けよう。財宝、秘宝、爵位、……娘でさえ。男はしかしすべてに首を振った。引き受けましょう、しかし、私はそれらを望みません。
戦争は将軍の活躍によってその国の大勝利に終わった。国王は将軍を再び城に招き、その活躍を称えた。
さて、約束通り、そなたの望むものを与えよう。余は何でも授けよう。領土、名誉、力、……国でさえ。
将軍は首を横に振った。私が欲しいのはそんなものではございません。ただ、一つの小さな家が欲しいのです。ベルデの森の近くに、小さな家が。彼女しか受け入れない、小さな家が。
国王は二つ返事で引き受けた。ただし少しばかり大きな家にした。将軍の働きに見合った城のような家。ベルデの森から顔を出すような、立派な城。
その城は、二人で暮らすには余りにも大きかった。彼女が暮らすには余りにも目立っていた。しかし国王が『褒美』というものだから、将軍は一人でそこに住む。その城は彼女しか受け入れない。男の愛をもらい受けた彼女にしか開かない。
やがて年月が経ち、将軍は彼女を愛したまま永遠の眠りについた。城には誰一人いなくなったが、ずっと将軍と彼女のものだった。
だから、扉は開かない。