19話
夢小説設定
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「それで結局、婚約を解消して帰ってきたんだったら、ロッタはこれからどうするの?」
コトコトと揺れる馬車の中、ルーナはつぶらな瞳を目いっぱい開いてロッタの話を聞いていた。リュシオンとジーンには既に情報が伝わっていたが、ルーナには初耳だった。
「そうですね……」
「ロッタ、敬語!」
「……。……えっと、まだどうするかは決めてないの」
二人の時だけではなかったのか。ロッタはそう思わずにはいられなかった。しかしルーナにとってこのメンバーは『二人のようなもの』なのである。
「普通にいけば社交界だろうな」
「ほとんどの令嬢は夜会で相手を見つけて結婚しますからね」
クレセニアの貴族文化では、女性は18歳前後になるとデビュタントという国王に謁見する儀式を経て正式に社交界の一員になり、通常20歳前後で結婚する。それは世の女性の憧れの的ではあったが、ロッタは今一つ気乗りしなかった。ただルーナはほとんどの令嬢と同じく社交界に夢を抱いている。
「じゃあロッタも綺麗なドレスを着て踊ったり話したりするんだね」
「わたしの予想では、社交界ってそんなにいいものではないと思うわ」
ふわふわと舞い上がるような空想を持つルーナに対し、ロッタはあくまで現実的だった。令嬢が集まって嫁ぎ先を探すのだから、絶対キラキラだけの世界ではない。
「まあ、ごもっともだな」
「リュー! そんなこと言ったらロッタがさらに夢を見なくなるでしょ。絶対ロッタの理想の人が社交界にいるよ。だって候補はたくさんいるし!」
「数撃ちゃ当たるってやつか」
それは色々な人に失礼だ。
「王太子殿下よりも素敵な人だって、きっといるはず」
「あの、ルーナ、気を遣っているなら別にその必要はないわ。多分傷ついているのはネグロ侯爵家に連なる人たちくらいで、わたし自身は特に何とも思っていないの」
ロッタの言葉はすべて事実だった。そもそも、初対面の人間との婚約解消のどこを落ちこむと言うのか。それに侯爵家もエアデルトからがっつり恩恵を受けたのである。
「トーレス街道のエアデルト側の通行料を下げるという議題が通ったらしいな。街道の延長はネグロ侯爵領だ。商人たちはメレディス街道よりもトーレス街道を通るようになり、侯爵領の収入が上がるという訳か」
「婚約が上手く進めば権力を、進まなければ財力を得るというヴィンセント伯爵の目論見通りですね」
まったくあいつは。リュシオンは思わず独りごちる。
「そ、そうなんだ……。あ! そういえば豊穣祭のときの、ロッタの話をまだ聞いてなかったなあ。それについても王太子殿下から聞いたことがあったんでしょ?」
馬車の不穏な空気をどうにかして払拭しようと、ルーナは思いつくままに話題を振った。
「ええ。正確にはわたしがロブロアの森で出会った『妖精』についての話なのだけど」
「妖精?」
「便宜上そう呼んでいるだけよ。正式名称は
リュシオンとジーンが興味を持つのを見てからロッタは豊穣祭での出来事を簡潔に話した。ルーナから大まかな流れは聞いただろうと考え、特に彼女たちとはぐれてからの話を重点的に。
「なるほどな。ルーナが神獣を召喚している間に、お前はそんなことをしていたのか」
「したくてしたのではないのですが」
呆れた視線を投げられ、彼女は悪あがきのように言う。川の選択を間違えれば獣や魔物の
「それで、ロッタが『妖精』と呼ぶことにした女性の正体が、下級女神だったということだね?」
「はい。わたしは初めて聞きましたが、エアデルトでは有名らしいです。特に下級女神に関する有名な逸話があるそうでして、それを教えていただきました。……旅路は長いですし、話しましょうか」
逸話という表現が心に刺さったのか、ルーナは瞳を輝かせた。ロッタは淡々と、しかし聞き心地の良い声色で話し出す。