19話
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派遣団が王都に到着してからひと月余り。予想外の出来事は多々あったものの、国王の治療、回復という本来の目的を果たして一行は帰路に着く。
魔族の男はヘクトルを使って国王に対する禁呪まで行っていたらしい。彼の死と同時に昏睡から目覚めた国王は、神木の実のおかげもあり驚異的な回復を見せた。その後の経過を観察したのち、城下町に宿泊していた技術者たちを王城に招き文化交流を行った。ミゲルもその際に国王並びに王太子と面会し、それなりの成果を得られたようである。
別れを惜しむカインとルーナを尻目に、ロッタは目の前の人物に向き直った。
「このひと月お世話になりました。色々と面白いお話も聞かせていただいて」
「世話になったのはこちらだ。君の尽力は決して忘れないだろう。……本当にありがとう」
晴れ渡った青空のような瞳がロッタを捉えた。最後の感謝は別れの言葉の代わりだった。彼女も王太子に倣うように空色の瞳を覗いて微笑み返す。
彼の母である王妃は、国王を本当に愛していたのだろう。しかし国王は子爵令嬢を愛してしまった。今回の事件は二人の悲しいすれ違いによって起こったものだった。国王の回復から数日後、ネグロ侯爵家に正式に婚約解消の話が持ち掛けられたのである。
「君には申し訳ないことをした。はるばるクレセニアから来てもらって、騒動に巻き込んだ挙句、解決の手助けもしてもらったのに……」
自責の念に駆られているような憂うつな表情に、彼女は緩く首を振る。
「その分侯爵家には便宜を図ってくださったと伺っております。フィーネの件についても都合をつけてくださいました。それに見返りが欲しくて動いたのではありません。どうかお気になさらないでください」
「そう言ってもらえるとありがたい」
王太子は苦笑する。
「……この判断が、王太子として正しいものなのか否かはまだ分からない。ただ、母上がああなってしまったのを見ると、もう少し深く考えてみたいと思ったんだ。……君は甘い思うかい?」
「いいえ」
澄みきった声は彼女の心境を表しているようだった。
「いいえ。わたくしも、同じ気持ちです」
王太子は彼女の断言するような物言いに瞬きをして、困ったような笑みを浮かべた。一方でロッタは複雑な心境で彼を見つめ返す。
これは口止めされているので言えないが、実は彼女も婚約を解消する意思を固めていたのだ。城下町の宿でエリックと話したのは婚約解消の件についてだったのである。つまり何らかの賠償をしなければならないのはお互い様なのだが、エアデルトではすっかり王室の有責になっている。少しだけ肩身が狭かった。国王も王太子も人が好いだけに。
「君がもしエアデルトを頼ることがあればぜひ引き受けよう。覚えておいてほしい」
「もう十分いただきました」
「それでもだよ。私は、エアデルトと君がこれからも縁があるよう祈っている」
「……光栄です」
朗らかな笑顔を残して、ロッタは馬車へ歩いていった。ひと月の滞在を心に焼き付けるように、彼女たちを乗せた馬車はゆっくりと城門をくぐり抜けたのだった。