17話
夢小説設定
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ロッタは走りながら瘴気が弱まるのを感じた。それと同時にリラの泉の周辺を覆っていたある種の結界が壊れていく。しかしそれはリラの泉の結界ではない。人除けの結界。瘴気を発していた何かが倒されたことによって解除されたものだった。しばらくすると瘴気はさらに弱まる。しかしまだ一つ、何か大きな瘴気の塊が残っている。
彼女は考えることを諦めた。リラの泉に着けばどの道答えが分かるのだ。今はとにかく走ることに集中する。城の周りは兵士が一人もおらず彼女の足音だけがこだまする。遠くで聞こえる爆発音や剣がぶつかる音を除けばいつもの平和な白亜城そのものだった。しかし複数の人間によって踏みつけられただろうエトラールの有り様に、彼女は現実に引き戻されるような気がした。まだ事件は終わっていない。むしろここからが正念場だ。
坂道を下り視界が開けた先にロッタが見たのは、無残に荒らされたリラの泉と、『魔物』を捕えようと苦闘するリュシオンとカインの姿だった。
(あれは、……王妃様!?)
どこか見覚えのある装飾品と兵士たちの態度からロッタは目を見開いて佇む。そんなことは有り得ないと心のどこかで思っていても、目の前の光景は一つの事実を指し示していた。
「聖なるかな、風よ!」
変わり果てた王妃に釘付けになっていた彼女の視線は、その声でリラの泉に集まる人たちに向く。
「清らかなりし、水よ!」
ルーナの呼びかけを受けて、風姫と、水をまとったもう一人の精霊が応えるように彼女の傍に立つ。風姫は幼い少女の容姿だが水の精霊は大人の女性だ。
(妖精さんに似てる……。少し違うけど、でも、あれはやっぱり)
ルーナは精霊を使って王妃の行動を制限しようとしていた。彼女の身体から水の精霊へ洪水のように力が流れていくのが目に映る。しかし周りの反応を見ると彼女の力はもちろん、精霊の姿さえ見えていないようだった。王太子やニール侯爵は何が起こったのか把握できていないようで呆然とその様子を見守る。一方でリュシオン、ジーン、そしてカインはそれぞれの感情を込めてルーナの名を呟いた。
そのうち王太子の命を受けた兵士たちが王妃を捕縛しようと彼女に近付く。しかしなおも抵抗を続ける魔物に、彼らが手を出しあぐねていたその時――
銀色の短剣がルーナたちの横を通り過ぎ、そのまま王妃の胸に突き刺さった。その場にいる面々は一拍おいて何が起こったかを知る。なんの強化もされていない短剣が魔物化した王妃に傷をつけられるはずがないにも拘らず、王妃の胸元は確かに赤く染まっていた。
「母上!」
王太子が叫んで駆け寄ろうとした時、彼らの耳に誰かの魔法語が聞こえてきた。
『ヴィラン・セグ・サーティス』
中位の風系魔法は、発動した瞬間に竜巻に姿を変えルーナたちに襲い掛かる。中位と言ってもロッタが少ない
そのままぶつかるかと思われた竜巻は、風姫の力で何とかその威力を相殺する。
「風姫さん!」
彼女は腕を抑えて苦しげな表情をにじませていた。風を操る精霊が風によってダメージを受けたのだ。彼女の姿が見えているロッタはその様子に目を丸くする。彼女が精霊王だと知っているルーナにとってはなおさら衝撃的だった。
ルーナたちの前方、ロッタにとっては少し離れた場所に偽物のオリバレス子爵が宙に浮いて立っていた。緑の長髪と赤紫色の瞳。平原で見た男だった。全てを見下す眼差しにロッタはきつくこぶしを握る。この男に近付いてはいけない。身体の奥から警鐘が鳴り響くようだった。小刻みに震えだす手足を叱咤して彼女は男を睨みつける。
「思い上がった精霊どもを見ると、つい苛立ってしまう」
両手を挙げて肩をすくめる男の仕草は明らかに精霊たちを馬鹿にしたものだ。精霊たちが気色ばるのを面白がるように眺めた男は、おもむろに前へと手を伸ばすとその指をパチンと鳴らす。一瞬にして変化する男の姿。