15話
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「私が王城で見たオリバレス子爵はこの絵とは似ても似つかぬ容姿をしていた。君たちもそうじゃないか?」
「は、はい……。いえ、そうではなく、これは」
「恐らく、だけどあの人が……」
「私たちは何ということを……! はやく牢から出さねば!」
一斉に騒ぎ出す使用人たちの中に、ロッタたちにも予想のつかない言葉が交ざっていた。
「牢? 牢とは、どういうことですか?」
「この、この方をわたくしどもはよく存じております。数か月前に主人が連れてきた狂人です」
「狂人?」
ロッタは何が何だか分からないというように質問を重ねて投げかける。しかし彼らも混乱しているのか、彼女の質問に答える人間は誰一人いなかった。
そんな混沌とした室内を眺め、ジーンは深く息を吸い込む。
「静かに」
穏やかだが有無を言わせない一言に、今まで口々に言葉を発していた使用人たちがジーンを見る。部屋は一転して恐ろしいほどの静寂に包まれ、誰もが彼の話の続きを待っているようだった。
「君に説明してもらおう。まずこの肖像画の人間を知っているんだね?」
彼が指名したのは、先ほどロッタの質問に答えた青年だった。年は20代半ばほど。身なりからして給仕といったところか。
「はい。幼いころの絵ですが、恐らく間違いないと思います」
「彼はこの屋敷にいるのか?」
「……はい。主人……、あの、主人を名乗る男が屋敷に連れてきた方で、『彼は狂人だから地下牢に入れておけ』とおっしゃって……。あの、これは本当に、当代の幼少期の絵なのでしょうか。しかしそれなら彼は一体」
ジーンの質問に素直に答えていた青年は、耐え切れない様子で誰もが知りたがっている疑問を口にした。事の成り行きを見守っていた他の使用人たちも深刻そうにジーンをうかがう。
「これがオリバレス子爵の細密画であることは間違いない。しかし現在子爵を名乗っている男が誰なのかはまだ分からない。……子爵本人が知っている可能性がある。急いで地下牢から出してくれ。ただし、このことはこの部屋にいる人間以外に口外しないように。外出したり外部と連絡を取ったりすることも控えてほしい」
彼はそれだけ言うと残りの作業を執事に一任した。屋敷のことは事情をよく知る使用人に任せた方が速いとの判断である。
騒然とした部屋の中で彼はロッタに近付いた。その意図を感じ取った彼女は、ジーン以外の誰にも気づかれないように小声で呟く。
「本物の子爵が見つかったとして、それを証言するにはこの屋敷の人間では力不足です」
「ああ。私たちが偽物のオリバレス子爵を陥れようとしていると逆に疑いを向けられかねない」
「わたしがこの屋敷で出来ることはそう多くないはず。……ジーン様、何をすればいいでしょうか」
時間がないことは承知していた。そして彼一人では間に合わないかもしれないことも。ジーンは顔を前に向けたまま思案する。ここまで巻き込んでしまったのなら、今さら安全がどうのと言っても聞く耳を持たないだろう。
「子爵は最近爵位を継いだばかりだから、彼自身の身分を証明することは難しいだろう。しかし先代や先々代の子爵をよく知る人間はディレシアにもいるはずだ」
「なるほど。細密画に描かれている男性が以前の子爵だと証明できれば、少なくとも緑の髪と赤紫色の瞳を持つ子爵が偽物だという根拠になりますね」
「その通りだ。……ロッタ、頼まれてくれるかい?」
ロッタは部屋に向けていた視線をジーンに戻した。意外そうな顔をして彼を見ていた顔は次第に明るくなっていく。
「はい。今すぐ行ってまいります」
「もし身分証明が必要ならリュシオンを出すといい。私から連絡しておく」
「わかりました」
彼女は素早く立ち上がり部屋を出る。屋敷の外に待機させていた馬にまたがると、滞在が噂されている貴族の元へ走らせた。危険だとも大人しくしていろとも言われないのがこれほど嬉しいことだとは思わなかった。彼女の心中に呼応するように馬は気持ちよく風を切る。
ルーナはそろそろ王城に入るだろう。何としてでも間に合わせなければいけない。