14話
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子爵が不在だという家令の言葉を初耳のように受け止め、ジーンは子爵家の内情を探る。
「子爵は現在王都に滞在しているということだが、いつお帰りになるんだい?」
「まだ見通しはついておりません。ご存じのように、主人が子爵位を継いだのはほんの半年前のことでして」
「ああ。そうだったな」
家令の言葉に内心驚きながらも話を合わせる。
「冬前には戻られる予定だったのですが、王城で仕事を任されたとのことで滞在が延びたのです。そのためこちらから連れて行った使用人は一人を除いて領地に戻され、王都で新たに雇い入れたのですよ」
「一人を除いて? どうしてその者だけ?」
ジーンの誘導尋問に、家令は疑うことなく話していった。その使用人は子爵が落馬したところを助け気に入られたらしい。一通りの話を聞き終えすっかり考え込んでしまったジーンを見て首をかしげる家令に、ロッタは不自然に思われないよう質問を投げかける。
「わたくし、まだ子爵様とは一度もお会いしたことがないんです。どのような方なんですか?」
今までずっと静かに聞いていた彼女の声を聞き、家令は若干驚いた素振りを見せた。小柄な女性だと思っていたが、声からして年端もいかない少女のようだ。しかし彼女の落ち着いた雰囲気に彼もまた丁寧に受け答えをする。
「そうですね。オリバレス子爵家はエアデルト国内でも目立った家門ではないかもしれません。しかし先代や主人は心を尽くして子爵領を管理なさっていらっしゃいますし、領民たちも豊かな暮らしをしています」
本当に尊敬できる人なのだろう。子爵を思い出して顔を緩める彼を見て、ロッタは素直にそう思った。しかしそれは余りにも彼女やジーンのイメージと異なる。
「その壁の絵が、先々代の父君と、幼いころの先代と主人を描いたものです」
家令は彼女にそう言って顔を絵画へ向ける。つられてジーンもそれを見て、驚愕の表情を浮かべた。
「ジーン様? どうかなさいましたか?」
「――そうか」
唐突に声を上げたジーンは納得したようにうなずいた。
「少しこの細密画をお借りしてもいいかな?」
「……は? い、今なんと」
黙り込んだと思ったらいきなり突拍子もないことを言い出した彼に、家令は呆けた返事しかできなかった。しかしそれはロッタも同様で、ジーンの横顔をひたすら眺めている。
「実は、私たちはディレシアの王城から子爵領に来た」
「ジーン様!」
「いいんだよロッタ。……そのときに子爵ともお会いした。だから子爵領に彼がいないことは最初から分かっていたんだ」
あっさり手の内を明かすジーンに思わずロッタは腰を浮かせる。彼女の顔は信じられないといった様子で彼を見つめている。しかし当のジーンはそんな彼女を片手で制し、言葉を失う家令に話を続けた。
「ここで君から子爵の話を聞いたわけだが、どうにも私の子爵に対する印象と、君の話す内容がかみ合わない。それを不自然に思っていたが、やっとその理由が分かった」
ジーンはそこで一旦話を切った。ロッタと家令を交互に見つめる。ここまでの話に付いてこられているかを確認するような仕草だった。
「驚かずに聞いてほしい。私がお会いした子爵は緑の髪と赤紫色の瞳をしていた」
「な、何を……! 主人は、そんな容貌ではございません!」
家令は取り乱した様子でジーンに食って掛かる。彼が貴族であることを失念したような態度だ。ジーンはそれを意に介さず、怯むこともなく落ち着き払っていた。
「ああ。だから君の話と私の印象に食い違いがあるのも理解できる。知っていたら教えてくれ。子爵が気に入ったという使用人、彼は緑の髪と赤紫色の瞳をしていなかったか?」
勢いづいて口を開いた家令だったが、ジーンの言葉に声が出てくることはなかった。目を開いて左右に泳がせ、次いでハッとした表情で二人を見る。
「……しておりました。ですが、なぜ、……まさか、そんなことが……」
すっかり動揺が顔に出た彼を見て、ジーンは確信した。壁に掛かっている細密画に再度目を向ける。細密画に描かれた男性と二人の少年はいずれも、赤い髪に青い瞳をしている。
「まさか、その使用人が子爵に成りすましているとお考えですか?」
「恐らくそういうことだろうね。……急ぎ子爵の別邸に行かなければならない。付いてくるかい?」
ジーンは彼女にそう尋ねたが、答えは分かりきっていた。
「もちろんです。一刻も早くディレシアに戻りましょう」
それは、彼が思った通り、空が晴れ上がったようにさっぱりとした返事だった。