14話
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オリバレス子爵の領地は王都ディレシアの北にあるブロウゼル山のさらに北にある。レブン村から見ればほとんど真西に位置するその領地は小さいながらも豊かだった。良質な葡萄酒が作られ、領民は健やかに生活している。想像以上に平和な風景に、ジーンは少しばかり驚きながら辺りを見渡す。
「あれが子爵の領主館でしょうね」
ロッタが指さす先には、赤レンガと白い石のコントラストが美しい優美な建物があった。
「本当にあの作戦でいくつもりかい?」
「はい。今回は留守番はいやです」
「……わかったよ」
ジーンは苦笑しながらも、彼女のかたくなな態度に折れたのだった。
二人が馬に乗ったまま館の門前に赴くと、すかさず門番小屋から若い使用人が駆け寄ってくる。彼は二人をいぶかしんでいる様子だ。
「あの……どちら様でしょう」
「私はクレセニアのアルデア伯爵という者だ」
彼は敢えて名前ではなく爵位を名乗った。エリックと同じように、彼もまた複数の爵位を持つ貴族の嫡子ということで、リヒトルーチェ公爵の次に高い爵位を名乗ることを許されているのである。
「わたくしは付き人のロッタと申します」
「オリバレス子爵にお会いしたい。取り次ぎを頼む」
使用人が聞き返す前に、ジーンはすかさず次の言葉を発した。
奇妙な二人だ。彼は直感的にそう思ったが、ジーンの態度を見て『探られたくない気配』を敏感に感じ取った。長年貴族に仕えていると、自分にはおおよそ考えも及ばない複雑な事情があることに気づく。しかしそんなことを一々詮索していては寿命が短くなるだけである。
すぐさま門扉が開かれた。二人は馬に乗ったまま門をくぐり、玄関先まで進んでいく。ジーンは、何も言わずにこちらを向いて二コリと微笑むロッタを一瞥した。
(彼女の評価を改めなければならないな)
色々な意味で目立ちすぎる兄たちの知名度に押されて、世間はあまり彼女のことを認識していない。しかし今回の一連の事件に対する洞察力と行動力は、彼女自身にも十分に才能があることを示していた。ただジーンはどうも彼女を『世間慣れしていないご令嬢』と思ってしまう節がある。初対面のときに、ランデンにくっついていた彼女の印象が強いからだろうか。
屋敷の家令にはジーン・リヒトルーチェと伝えた。さすがは領地を任されるだけあって、『リヒトルーチェ』という名にもすぐに思い当たったのだろう。家令は恭しく頭を下げると次いでロッタに視線を向ける。
「こちらはロッタ・ツェリ。私の付き人だ」
「付き人……ですか?」
「ああ。私の遠縁の親戚でね。外遊もかねて連れてきたんだが、むしろ私の方が面倒を見なければならないよ」
軽く肩をすくめて冗談を言うジーンに家令も小さく笑みを浮かべると、二人を屋敷の中へ案内した。