13話
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そうして話すうちに宿についた。二人は夕食をとったのちリュシオンに連絡を入れる。彼女が王城を出てから初めての連絡だった。
『ジーンか?』
「はい。隣にロッタもいます」
リュシオンには姿が見えていないにも拘わらず、彼女は居住まいを正して魔道具と向き合う。
『俺に何か言うことはないか』
「……嘘をついたのは謝ります。調べるつもりはないと申し上げましたが、初めからこうするつもりでした」
しかし、と彼女は勢いよく顔をあげる。
「行動自体は間違っているとは思いません。わたしに関係のないことならまだしも、何故か襲われ何故か命の危険にさらされているのです。その真相を知りたいと思うのは当然でしょう?」
『お前は俺たちのことが信用できないと言っているのか』
「そうではありません。自分の命は自分で守る。その責任をわたし以外の誰が担えましょうか。きっとわたし自身が解決すべき問題です」
平原で見た男と、ヘクトルに付いていた文官は容姿が違ったが同一人物のように思われた。彼女があの夜に聞いた『声』は平原の男のものだ。そしてヘクトルも<変化>や<傀儡>の魔法がかけられている。となれば一番怪しいのはヘクトルを連れてきたオリバレス子爵なのである。
一度言い出したら聞かない。まるでどこかの公爵令嬢を見ているようだ。リュシオンは心の中で幼い少女を思い浮かべる。しかし一人で行動に移そうとする分、ロッタの方がやりにくい。
「幸い彼女が一人で旅立つ前に見つけられましたので、安全は保障します」
すっかり黙ってしまったリュシオンをなだめるようにジーンは付け足した。
『……まあいい。どこもかしこも緊急事態だ。今さら貴族令嬢が田舎に行くぐらいのことで目くじらを立てても仕方ないしな』
だからさっさと成果を報告しろ。リュシオンはぶっきらぼうに告げた。それを魔道具の前で聞いていたジーンはロッタを見て軽く微笑む。彼女も呼応するように小さくうなずいた。
ジーンはレブン村でロバートの友人から指輪を預かった。そこには貴族の紋章が刻まれていた。ロバートは貴族の裏切りを警戒して友人に指輪を預けたのだろう。しかし貴族は彼を殺した後で指輪を奪い返せばいいと考えたのか、あっさり彼を亡き者にした。
「それでは、その貴族は指輪が見つからないことに焦っているでしょうね」
「いや、レブン村は至って平和だった。ロバートが宝飾細工の匠だったことを考えると、友人に累が及ばないよう偽物を自分の手元に置いていたと考えるのが妥当だろう」
「貴族に真実を打ち明けないまま殺されたということですか」
ジーンの仮説を、ロッタは頭の中でかみ砕いた。いざ刺客が訪れたとき、ロバートは自分の友人や妹の命を優先したのだろう。
その後リュシオンが図書館へ行き、エアデルト貴族の紋章の一覧が載っている本を借りてきたところで、話し合いは再開した。
「中央に盾、後ろに交差した剣と杖です。そして盾の横には、跳ねた二匹の魚が描かれています」
ジーンの説明を受けてリュシオンが当てはまる紋章を探す。しばらくパラパラと本をめくる音だけが魔道具から聞こえてくる。二人は彼の集中を邪魔しないよう、物音一つ立てずに長い時間を過ごした。
『ロッタ、お前の予想通りのことが起ころうとしているようだ』
「……まさか」
長い沈黙ののち、ようやく聞こえてきたリュシオンの声に彼女はわずかに瞠目する。
『ああ。オリバレス子爵家。あの王妃の側近の紋章だ』
「これでますます王妃の関与が明らかになりましたね」
確信のこもったリュシオンの言葉に応えるように、ジーンが言葉を発する。指輪のおかげでオリバレス子爵がカインを襲わせたことが証明されたのだ。バラバラだった問題が徐々に一つに繋がっていく。
『王太子と国王が目覚めれば、王妃は言い逃れできなくなるだろう。偽物を立てた上に、本物の王の子を襲ったんだからな』
ルーナの帰還が鍵だった。しかしまだジーンたちにもすることが残っている。
「最初はヘクトルとオリバレス子爵の関係を探るつもりでしたが、ロバートに関わった子爵家の人間を探すことも課題になりましたね」
「ああ。とにかく、行ってみないことには始まらない。……では私たちは明日からオリバレス子爵領に向かうことにします」
『そうだな』
ロッタは彼の拗ねたような口調に首をかしげる。
「リュシオン様?」
『無茶はするなよ。切るぞ』
彼は短く言い残し、ほとんど一方的に遠話を終えた。顔が見えないので何とも言えないが、少し機嫌が悪そうだ。
「どうしたんでしょうね」
「羨ましいんじゃないかな。あの人は外に出たがりだからね」
ロッタはそれから自室に戻ると固い寝台に身を横たえた。野宿も覚悟していたが、街道沿いに走っただけあって宿には困らなかった。ただ、自分のことは自分で面倒を見るのが基本の旅路でも、ロッタは上手く順応できていた。奉公人だった前世の記憶があるからだろうか。自分には意外と旅人の才能があるかもしれない。頭の隅でおかしなことを考えながら、彼女は深い眠りについた。