2話
夢小説設定
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王太子が眠る寝室から自室に戻った王妃は、まさに呆然自失といった様子で長椅子に倒れこむ。虫の息の息子を思い出すたびに頭がズキズキと痛んで仕方なかった。
しかし王妃の心痛を知ってか知らずか、長身の男――オリバレス子爵――は、いつもの飄々とした態度をやはり崩さずに王妃に向かい合う。鮮やかな緑の長髪を後ろでまとめ、赤紫の瞳に
「今は様態も安定していると聞き及んでおります。まことに幸いなことでございます」
「いつ容体が悪化するか分からないけれど。……それで、よ。ユリウスを襲ったものは、カインという名の少年だったということよ」
王妃は子爵の様子を窺いながら言葉を並べる。きっと驚くだろうという王妃の予想とは裏腹に、彼は一言「ほう」と呟いただけだった。
「分かっているの!? カインは本物の――」
「王妃殿下。そのように興奮されては、女官たちが心配して飛び込んできますよ」
声を荒げる王妃に穏やかながらも威圧感のある声でオリバレス子爵が言い放つ。王妃は冷たい水を浴びせられたように一瞬身を震わせ、大きく息を吐いた。
「リュシオン殿下と共にいた娘が賊を見て叫んだそうよ」
「それはまた随分と都合のいい偶然ですね」
王妃は動揺を見られまいと、努めて落ち着いた声で話を再開する。彼女の言葉に、それまで無表情だった彼は少しだけ興味深そうに返した。
「その娘はロドリーゴ・マティス卿の娘。男爵という身分だけれど、クレセニア王の覚えのいい人物と聞いているわ。あれが匿われていた公爵家と面識があっても不思議ではない」
「なるほど。単なる顔見知りだとすると、下手につつけば逆にこちらが不信感を抱かれることになりかねませんね」
「そういうことよ。それにあの娘が魔法治療を施してユリウスを救ったと聞いたわ」
「あのように幼い娘が魔法治療……」
オリバレス子爵は王妃の言葉を小さく繰り返す。しかし彼が会ったことがないはずのルーナを『幼い』と形容したことに、王妃は気づかなかった。
「それからニール侯爵が言っていたのだけど、その娘、どんな病や傷も治してしまう秘薬の話をしていたらしいの」
「ほう……それは興味深い。しかしそのような秘薬ならば、もっと広く知られていてもおかしくないはずでは?」
彼の指摘はもっともだった。しかし藁にもすがりたい王妃は、ルーナの言う秘薬がもし存在するのならば何としてでも見つけ出してユリウスに使いたい旨を子爵に打ち明ける。そしてルーナが自ら取りに行きたいと言っていたこともついでに話した。
「秘薬というからにはその場所をおいそれとは教えてもらえないでしょう。かといって入手困難な秘薬を隣国の王太子に取ってきてもらう訳にもいきません。男爵令嬢の嫌疑を逆手に取り、彼女自身に行ってもらえば万事が上手く運ぶのではありませんか?」
彼女にとっては確かに、下位貴族の令嬢の命など、息子に比べればあってもなくてもいいようなものだった。オリバレス子爵の提案に王妃は考え込むように口元に手を当てて、しばらくしてうなずいた。