9話
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黙り込んで静かになった室内に、微かなうめき声が聞こえた。寝台に横になっていた少女の目がゆっくりと開く。
「ロッタ」
ボーッと天井を見上げる彼女に、ジーンは優しく話しかける。すると次第に焦点が合い、やがて彼の瞳を捉える。
「ジーン様……?」
「そうだ。無事でよかった」
ふわりと微笑む彼を見て、ロッタは自分が助かったのだと自覚した。意識を失う前に聞こえたジーンとリュシオンの声を思い出す。
「ご迷惑をおかけしました」
「迷惑など気にするな。油断していた俺たちにも責任がある」
リュシオンは呆れたため息をついた。頭がしっかり回っていない状態でも礼儀正しい少女だ。ジーンによる体調の確認がしばらく続く。その間に事情聴取を終えた彼女の侍女が順に戻ってきた。彼女らはロッタの無事を見て感極まったように涙を浮かべる。
そのうちの一人、侍女頭だと思われる妙齢の女性が、悲痛な顔を浮かべてロッタに近付く。そして寝台の前まで来ると床に膝をついた。
「フィーネ」
「申し訳ございませんでした。お嬢様をこのような目に遭わせたことは、死んでも償いきれません。どうかご随意に処分くださいませ」
後ろでその様子を見守っていた侍女たちも、同様に膝をつく。
ロッタは彼女たちが魔法によって近づけなかったのだとすでに分かっていた。しかし彼女たちはそうではないだろう。なぜ自分たちが持ち場を離れてしまったのか、今でも疑問に思っているはずだ。
「あなたたちの責任でないことを、あなたたちに押し付けられないわ。今まで通りわたしの元で働いてほしいの」
「ですが、それでは余りにもお嬢様に申し訳が立ちません」
そうは言われても、彼女たちの責任は本当にないのだから何もできない。ロッタは頑なな彼女たちに困り果てた。
「今回の事件のことで、度々事情が聞かれることがあるだろう。そのときにはぜひ協力してほしい。それが君たちの失態の償いになるんじゃないかな」
目を伏せるロッタに、ジーンは助け舟を出した。
「ええ。そうしてほしいわ。それと、今回の件は他の侍女たちに漏らさないこと。わたしからはそれだけよ」
フィーネはそれでも納得がいかないような表情をしていた。しかしロッタが良いというのに言い募るわけにはいかず、ゆっくりと立ち上がる。
「かしこまりました。今後はこのような失態がないよう、誠心誠意お仕えいたします」
彼女は気持ちを切り替えたのか、凛とした表情に戻っていた。場が明るくなったところで、ロッタはふと自分の格好に目をやる。顔を真っ青にしたかと思うと、すぐに赤くなった。
この騒動ですっかり忘れていたが彼女は寝間着姿である。しかも今は深夜。寝台に横になっている。
(この状況、婚約者がいる身として……いなかったとしてもまずいんじゃ)
成人間近の男性二人の隣で、寝間着で寝台にいる少女。だめだ確実に噂が立つ。今が非常事態でなければ嫁の貰い手がなくなっているところだ。気づいてしまったら平静を装うことはできなくなった。彼女は布団をさりげなく肩まで持ち上げる。しかしその様子は明らかに不自然であり、結果的に二人の注目を集めることになった。
ジーンは何かに気づいた様子だったが、リュシオンは頭に疑問符を浮かべたように彼女を見る。
「どうした?」
(ああ、だめだ……。墓穴を掘った)
目を左右に泳がせて、ロッタは何か上手い言い訳はないかと考える。室内は適温。とても寒いと言える状況ではない。
「一つよろしいでしょうか」
声を発したのはフィーネだった。
「なんだ」
「お嬢様にも事情をお伺いになるのでしたら、身支度を整えさせていただきたいのです」
彼女はあくまでも丁寧に、やんわりと発した。それは侍女として当然の主張であり、ロッタが同じことを言うのとでは意味が違う。
リュシオンは短く「そうだな」と呟いた。本当は彼女を休ませてやりたいところだが、明日になるとジーンが王城を出てしまう。出来ることなら今事情を聞きたい。
「今から話せるか」
「はい。問題ありません」
「よし。では俺たちは俺の部屋で待っている。身支度をしたら部屋に来い」
「かしこまりました」
リュシオンはそう言うとジーンと共に部屋を出て行った。ロッタが感謝のこもった瞳をフィーネに向けたのは言うまでもない。