8話
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ルーナまで王城に残らなかったのはある意味良い選択だったのかもしれない。リュシオンは頭の端で考える。ロッタよりもさらに立場が弱い彼女に何かあっても、ここでは思うように対処できないだろう。しかし彼は気持ちを切り替えるように真面目な顔を作った。
「だがお前はロッタの心配より調査が優先だ」
「もちろん、承知しています」
リュシオンの言葉に、ジーンもまた真面目な表情でうなずいた。彼らが引き続き話し合いをしようとしたそのとき――
王城が揺れたのかと思うほどの轟音が響き渡った。閉鎖された空間に音は逃げ場を失って反響する。深夜だということも相まって、その音はすべての人間に非常事態を知らせた。彼らは部屋の外を眺めて一瞬動きを止める。しかしすぐに気を取り直すと、ジーンは立ち上がって扉に近付いた。それとほぼ時を同じくしてノック音が聞こえた。
「ジーン様、殿下はご無事ですか!?」
警戒するように扉を開けたジーンだったが、廊下にミュラーの姿を捉えると入室を促した。すぐさま扉を閉め彼に詰め寄る。
「何があった」
「それが、まだ把握できておりません。南東の方角から音が聞こえましたので、現状を確認中です」
「南東だと?」
ミュラーは彼の無事を確認したあとも険しい表情を崩さず報告した。ジーンは彼の言葉に目を瞠り、リュシオンの方を向く。リュシオンも彼と同じことに思い当たったようで、ハッとした表情で立ち上がる。
「殿下はここにいてください。様子を見てまいります」
「いや、俺も行こう」
「危険です。ここでジーン様をお待ちください! 殿下っ!」
ジーンは慌てて部屋を後にした。彼に続きリュシオンまで現場に向かいかねない様子に、ミュラーは必死に思いとどめようとする。しかしリュシオンは意に介さずジーンを追いかけたのだった。
廊下には大勢の兵士が集まって上官の指示を仰いでいた。彼らの顔には一様に緊張が漂っている。しかしそれを遠巻きに見つめる女官や侍女は、緊張よりも不安の方が強いようだ。立て続けに事件が起こり、王城は重苦しい雰囲気に包まれていた。
ジーンは騒ぎが大きくなってきた廊下を足早に進み、ロッタのいる棟に向かう。リュシオンの部屋から見て南東とは、ちょうど彼女の部屋のあたりだ。
「先ほどの音は恐らく魔法によるものだろう」
いつの間にか追いついていたリュシオンに、ジーンはぎょっとして隣を見る。
「お待ちくださいと言ったはずですが」
「俺が待てと言われて待つと思うか?」
「思いませんが、なぜそんなに自慢げなんですか」
ミュラーが眉を八の字にしながらたたずむのが目に見えるようだ。今頃リュシオンを追いかけるよう部下たちに命じているだろう。
「あの音は、ロッタが
「そうかもしれません」
ジーンはそう言うと不意に言葉を切る。廊下を直角に曲がった先、彼女がいる棟は不自然なほど暗かった。まるでそこだけが闇に包まれているように静まり返っている。部屋の外に控えているはずの侍女たちも衛兵の姿も見当たらない。異様な光景に二人は眉根を寄せ、速度を落として一歩ずつ足を進めた。
(<幻惑>の魔法か……? 誰かがここに人を近づけないようにしたということか)
リュシオンは辺りに残る魔法の跡に軽く顔をしかめる。彼らの後を追うように衛兵たちも棟に到着し、廊下に明かりをつけていく。すると次第に魔法の跡は消滅した。
「ジーン、あれを見ろ」
リュシオンに促され、ジーンは彼の視線を辿る。次の瞬間、心臓が止まるかと思うほどの大きな衝撃が彼を襲った。一つだけ開いた部屋がある。この棟の一番大きな部屋。彼女の部屋だ。
彼らはどちらからともなく走り出す。先に部屋に入ったのはジーンだった。室内には長身の男が倒れていた。気絶しているようで微動だにしない。床には魔道具が散乱していた。そして部屋の奥には疲れきった様子の少女が、棚にもたれかかって目を閉じるのが見えた。
「ロッタ! しっかりしろ!!」
彼女は安心したように脱力する。男の処理をリュシオンに任せ、ジーンは彼女を抱きかかえた。