8話
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ルーナが出発した次の日、ジーンは城下町にある『ネルグ』という店に足を運んだ。ニール侯爵から紹介された青年の話によると、その工房はエアデルトでも一、二を争う宝飾細工の店のようだった。
(思った以上に時間がかかるかもしれないな)
大きな窓から見える従業員の多さに、彼は再度気を引き締める。次いでルーナから託された指輪をじっと見つめた。それはカインを襲撃した魔術師がはめていた指輪だった。その指輪の細工は『ネルグ』の職人が施した可能性が高い。彼女は小さな痕跡を辿ってエアデルトまでやってきたのだ。その細い道筋をここで途絶えさせるわけにはいかなかった。
青年から説明を聞き終えたジーンは、ためらうことなく入り口の扉を開けた。
陽が落ちてしばらくしたころ、ようやく王城に戻ったジーンはその足でリュシオンの元に向かう。調査は覚悟していた通り一筋縄ではいかず、細工師はすでに死んでいることが分かった。彼は死ぬ少し前、どこかの貴族のお抱えになったらしい。その『貴族』とはどこの人間なのか。今度はそれを突き止めなければならなかった。
リュシオンは客室で本を読んでいる途中だったが、ノックの音にすぐさまソファから立ち上がり、自らドアを開けてジーンを招き入れた。
「それでどうだったんだ?」
待ちきれないといった様子のリュシオンに、ジーンは先ほどまでのことを詳しく話す。
「ロバートは約束が
ロバートというのは死んだ細工師の名前である。ジーンは工房を訪れたあと、彼の家にも足を運んで家族から情報を聞き出していた。
「契約の証とはなんだ?」
「それは妹も知りませんでした。そこで彼の故郷、レブン村に行ってみようと思っています」
ジーンは懐から四つ折りにした地図を取り出し、テーブルの上に広げた。レブン村は王都の北東に位置している。そこはレゼア湖の東、メイデル山脈の麓にある小さな村で、その北にはベルデの森が広がっている。
「距離は?」
「街道を利用し、馬で四、五日といったところでしょうか」
「往復で十日ほどか」
「はい。ですが行く価値はあるかと」
ジーンの言葉にリュシオンは黙ってうなずく。側近である彼がリュシオンの元を離れるのは手痛い。しかし大きな収穫があるかもしれないことを考えると危険を冒す価値はあった。
「しばらくルーナだけでなく、私までお側を離れることになります。寂しくなったらロッタに話し相手になってもらってくださいね」
悪戯っぽく言うジーンに、リュシオンはすぐさまムッとして「黙れ」と言い放つ。しかし次の瞬間には、ジーンと一緒に笑顔になっていた。
「そのロッタだが、部屋にいる間は衛兵の見張りが手薄になるようだ」
初耳の事実にジーンは顔をしかめる。
「なぜです?」
「聞いたところでは、大げさに警護をして王妃に目を付けられても困るからだそうだ。裏目に出なければいいがな」
王妃がどうのというのは建前だろう。ただでさえ王城周辺の見回りや、王城内の警備強化に人員を割いているのだ。削減できるところは削減したいという意図が透けて見えた。王太子襲撃事件が広まってしまった以上、彼女を監視する意味がなくなったといったところか。
「こちらも人員を割きたいですが、他国の王城でクレセニア兵を自由に動かすことはできませんからね。後手に回るしかないのが歯がゆいところです」
「そうだな。せめてもう少し部屋が近ければ俺の警護と兼任させられるが」
「この機会にと、王妃が動き出さなかったことは不幸中の幸いでしたね」
しみじみと呟いたジーンに、リュシオンは無言でうなずく。