7話
夢小説設定
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ロッタは息苦しさを感じて目を開けた。じっとりと嫌な視線を受けているような気がして部屋の左右を見回す。しかしそこには誰もいなかった。部屋の外にも人の気配を感じない。
不安と恐怖ですっかり昂った気分を落ち着けようとして、ロッタははたと動きを止めた。
――それはおかしい
「誰か!」
彼女は外にいる人間にも聞こえるくらいの大きな声を出す。しかし返ってきたのは静寂だった。どんな時間でも数人の衛兵や侍女たちは控えているはずなのに。
「誰もいないの?」
暗闇がロッタを侵食するように部屋中を包む。言い知れない恐怖から彼女は声を出さずにはいられなかった。部屋の外に出て確認するのも怖い。彼女は音を立てないように布団を足元にどけて、寝台の外に足を出す。床下にとどまった冷たい空気が寝間着の隙間から足を通って全身に広がる。
――ギィィィ
扉からわずかに音が聞こえ、ロッタは明かりをつけようとしていた手を止めてそちらを見た。闇に目が慣れているおかげか扉の輪郭ははっきり見える。不気味な静けさの中で恐怖を煽るようにゆっくりと扉が開く。部屋の外には明かりが一つもない。境界線が分からないほど真っ暗な世界が広がっていた。
ロッタはこの瞬間、最もうるさく響いているだろう彼女の心臓を落ち着かせるように胸の前で手を握った。今にも飛び出てきそうなくらいバクバクと拍動を打ち、身の危険を知らせていた。そうしている間にも扉は隙間を広げる。ロッタは広がっていく隙間から目を離せなかった。神経を尖らせて何一つ見逃さないように息を詰める。
闇の中から金色の光が浮き上がった。それは彼女の目を貫くように閃光を放つ。光はだんだん大きくなり、やがて彼女の前に姿を現わした。
血色の悪い青白い顔をした男が立っていた。粘土を上下に伸ばしたように身体が薄く、背の高い男だ。針金のような手足が顔色と相まって人間味を薄れさせる。しかし一番不気味だったのは生気のない表情とは不似合いの金色に輝く瞳だった。狼のような目をした男は糸で操られたように不自然に身体を揺らしロッタの方へ歩いてくる。
ロッタは恐怖でふわふわとどこかへ飛んで行ってしまいそうな意識を奮い立たせた。胸の前で握った手に力をこめて声を絞り出す。
「あなたは、誰」
かすれた声はか細く部屋に落ちた。男は無意識に身体を動かしているかのように何の反応も見せずひたすらに彼女に近づいてくる。しかし声を出したからだろうか、ロッタは先ほどよりも幾分か冷静さを取り戻した。男が距離を詰めた分彼女も同じく後ずさる。時間にしては十数秒。しかしロッタには余りにも長い時間だった。彼女は手をついた棚の上に見覚えのある感触を確かめた。
(あった……!)
『連れてこい』
どこからか声が聞こえた。それに呼応するように金色の瞳が一瞬明るく光る。男がこちらに近付く前に彼女は手にしたハンドバッグを彼に投げつけた。次いで咄嗟に身をかがめ両手で強く耳を塞ぐ。
ハンドバッグが男に当たった瞬間、耳をつんざくような轟音が部屋中を包んだ。頭に直接大声を浴びせられるような気分の悪い音だった。庭園で休んでいた鳥が変な鳴き声を上げて飛び去っていく。それは部屋中どころか王城中に響き渡った。
男は
轟音が鳴ってからしばらくしてロッタはようやく身を起こした。頭がボーっとして視界が点滅する。投げつけたものは
部屋を見回すと先ほどまで対峙していた長身の男が倒れていた。ロッタは若干の吐き気を感じながら男が気を失っているのを確認する。来るとわかっていてもこれほどの被害をもたらすのだ。不意打ちだとなおさらだろう。
『なるほど、魔道具か。面白いものを作ったな』
先ほどから度々聞こえてきた声にロッタは勢いよく振り返って辺りを見渡した。それはどこからか彼女を観察しているようで微かに視線を感じる。しかし真っ暗な部屋にいるのはロッタと意識を失った男だけ。そのほかには影も形もない。気配は喉の奥を鳴らすような笑い声を最後に消えていった。
不気味な静寂は跡形もなく霧散する。入れ替わるように人の声が聞こえだし、外も火の明かりで暖かさを取り戻していく。複数の見知ったような足音を聞くと、彼女は尖らせていた神経が限界を訴えた気がした。
「ロッタ! しっかりしろ!!」
「おい、この男を連れていけ!」
狭まってくる視界に最後に映りこんだのは今までになく焦った様子のジーンの顔だった。