7話
夢小説設定
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山に囲まれた湖があった。清々しいほどの青い空と綿のような雲を映した水面からは爽やかな風が吹いてくる。風はわたしの髪を揺らし頬を撫でていった。暖かくもなく冷たくもない、温度のない風だ。
動物や鳥の鳴き声が一つも聞こえない。不自然なほど美しく静まり返った景色は、まるで風景画の中に立っているように現実味がなかった。
きっともうすぐ会えるだろう。わたしは久しぶりにこの
風が一瞬強くなった。わたしは反射的に目を閉じて何度か瞬きをしながら開く。そこには既にあの女性が立っていた。金色に輝く髪に赤い瞳。細い手足と質素なドレス。こんなに明るいのだからきっと顔が見えるはずなのに、わたしにはそれしか分からなかった。夢を見る度に記憶がおぼろげになる。だけど、彼女はわたしのお母様だ。
いつものように声は聞こえない。表情もまともに分からない。なのに影が掛かって見えないはずの口元が横に線を引くのが見えた気がした。
やがてお母様はわたしに背を向けて歩き出した。しっとりとした足取りで、風に吹かれれば消えてしまいそうな危うさで。わたしの身体は腕一本動かすのでさえやっとなほど重かった。少しずつ開いていく距離を必死にもがきながら詰めていく。待ってと口にしようとしてもこの世界には響かない。
湖に沿うようにお母様は歩いて行った。向こうには森の入り口が見え、このままではすぐに姿を見失いそうだった。しかしお母様はわたしの方を気にせずにゆっくり森に向かっていく。白いドレスが風になびいて左右に揺れる。いよいよ森に入ろうとしたそのとき、お母様はハッとした表情でわたしを振り返った。その拍子にわたしも思わず立ち止まる。
(どうしたのお母様?)
音にはならない声で話しかけた。
だけどお母様は首を横に振るだけだった。きらめく赤い瞳がわたしを通り抜けるように細められた。その瞬間、喉の奥を掴まれたような息苦しさと共に晴天だった空がどんよりと分厚い雲で覆われていった。わたしは両手で首を抑えながらその場に膝をつく。夢が覚めるときの、あの浮遊感に襲われた。