1話
夢小説設定
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その国は、精霊使いだった初代王妃を聖女と崇め、広く精霊に親しむ国だった。一般的には未知の存在と言われている彼ら・彼女らの研究も盛んであり、精霊に関する多くの伝承、物語が民の間に浸透している。その中でも『将軍と
――だから、扉は開かない。
まずは、現状を整理しよう。
一つ目。最初にして最大の謎は、国王陛下がお倒れになった原因。陛下は倒れる直前、庶子の存在を国内外に公表し王室に迎える意向を示された。庶子に関する詳細が公表される前に原因不明の病で倒れ、その直後、庶子を預かっていたというオリバレス子爵がヘクトルという名の少年を連れてきた。彼の持つ証拠によって王妃は彼を庶子と認めざるを得ず、国王の回復まで王宮で客人としてもてなすこととなっている……。
頭の中で言葉を並び立てていたロッタはついに限界を迎えた。整理すると言いながら、最後の言葉を思い浮かべるころには最初の言葉を忘れている。これでは全く整理にならない。
しかしエアデルトの内情に関することだけに、大々的に紙に書いて考察することは余りにも危険だ。彼女は傍に控える侍女たちを横目で見ながら、気づかれないように詰めていた息を吐きだした。
その夜は不気味なほど静かだった。正確にはロッタの過ごす宮殿に、ほとんど人がいなかったということである。それが王太子襲撃によるものだと知るのは陽が落ちてしばらくのことだった。
他国の令嬢であるロッタにはなるべく情報を与えたくないのだろう。護衛たちは彼女の安全を確保するという名目で、部屋を出ることを控えるように求めた。ほとんど監禁状態ではあったが、幸いなことに数人の侍女たちは自由に宮中を歩くことが許された。ロッタにそれを利用しない手はない。何事もまずは現状の確認から。エリックから教わった基本的な振る舞い方の一つである。
「失礼いたします」
「フィーネ、何か分かった?」
人気のない宮殿に、女性の足音は大きく響く。ロッタは落ち着いた声で挨拶をした彼女を待ち受けていたかのように口を開いた。フィーネと呼ばれた女性は背を伸ばしたまま礼をすると、すぐさま元の体勢に戻り問いに答える。
「王太子殿下の宮殿の周辺を見て参りました。警備が驚くほど厳重で迂闊には近づけませんでしたが、王妃陛下のお声が宮殿の外まで聞こえてきました」
フィーネは顔をわずかに
「陛下は、王太子殿下がなぜ目を覚まさないのかと、侍医に問い詰めておいででした。断片的にしか内容は聞き取れませんでしたが、クレセニアの方が白魔法で治療なさったのに、ご回復なさらないことに腹を立てておいでのようでした」
ロッタは今日の晩餐にルーナたちが招かれたと言っていたことを思い出した。王太子の襲撃に彼らが遭遇したのだとすれば、治療を施したのはルーナの可能性が高い。しかし魔法に関しては天才ともいえる彼女の治療をもってしても王太子が回復しないのだ。フィーネが伝えた漠然とした情報は、彼女が思っているよりも大きな衝撃をロッタに与えることになった。
「賊はどうやら取り逃がしたようです。陛下は何やら……少女を責めるようなことをおっしゃっていましたが、……話の流れは分かりませんでした。申し訳ございません。とにかく、牢につなげとおっしゃる王妃陛下をニール侯爵閣下がお止めしているご様子でした。それから何かを手に入れろとか何とか……」
最後の方はほとんど確信がないのか、今まで表情一つ崩さずに話していたフィーネは途端に歯切れが悪くなる。しかしロッタはそれを補完して余りある経験を既にしていたのだった。フィーネとロッタの違いは、今回の事件に関わっている人間の基本的な性格を知っているか否かという一点のみなのである。
フィーネも下がらせた部屋の中で、ロッタは一人机に向き合った。
(恐らく王妃は魔法についての知識が少ない。だからルーナ様の治療がどれほど的確かなど分からない。王太子殿下が目覚めないとなると、怒りの矛先はルーナ様に向かうはず。それをニール侯爵が止めに入ったというところよね)
庶子騒ぎがあってから、王妃はいつにも増して短気になったという話だった。そんな彼女が、最愛の息子が襲撃されたという知らせを聞いて冷静な判断ができるとは思えない。侍女の話では、ニール侯爵も彼女の暴走を止め切れていないらしい。となると、これはある意味いい機会かもしれなかった。
(次に王妃が行動するとき、それはオリバレス子爵の入れ知恵である可能性が高い)
突発的な事件に対しての王妃の反応は多くの人間が見た通りである。王妃の右腕と目されるオリバレス子爵がどのように彼女をなだめ、行動させるか。彼女を注視することで相手の力量が測れるだろうとロッタは予測した。
それは当たらずも遠からず。翌日に伝えられた新たな情報は、ロッタに新たな疑念を抱かせることになる。
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