13話
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ロッタは小さなハンドバックを持って、ミゲルと共に馬車から離れたところまで散策に出ていた。旅の一行はルーナとロッタを除いて男性である。そのため徐々に打ち解けていく彼らとは裏腹に、ロッタはどこか一線が引かれているように感じていた。実際には彼女の身分に尻込みする人間が半数、彼女の容姿と雰囲気に近づくに近づけない人間が半数といったところである。
(わたしの社交性のなさも問題よね……)
しかしそうとも知らないロッタはマイナス思考に陥っていた。リュシオンとジーンは、周りの人間が彼女にジレンマを抱えていることを何となく察していたが、エリックのことを考えると、黙っていた方が良さそうだと判断した。必然的に彼女とその他大勢の人々の間には
「お嬢様、そろそろ引き返しませんか」
後ろから付いてきたミゲルはずっと無言を突き通していたが、だんだん小さくなっていく馬車を見て静かに口を開いた。放っておくと結界の外に出そうな勢いである。無心で歩いていたロッタは彼の言葉にハッとして後ろを振り返る。幼いころから続く自分の人見知り具合に延々と反省し続けていたところ、こんな場所まで来てしまっていた。
「ごめんなさい。随分歩いたのね」
「いえ」
ロッタは短く返事をするミゲルをしげしげと眺めた。眼鏡の奥に見える緑の瞳は相変わらずどこか一点を見つめている。ほとんどの場合、初対面の人間は彼女を見て固まるか、好意的な反応をするかの二択なのだが、彼はどちらとも違う反応をした。ロッタより口数の少ない人間というのも今までにほとんど見たことがない。
「何か?」
「あ、いいえ。戻りましょうか」
「かしこまりました」
傍目から見れば会話がなさすぎて息が詰まるような雰囲気だったが、ロッタは不思議と居心地の悪さを感じなかった。ただ、彼が侯爵家の交渉人としての役割を全うできるのかが心配になってくる。
(絶対話術で合意を引き出すタイプではないわね……)
それだけは明らかだった。
先ほどから何か考え事をしているらしいロッタの後を追いながら、ミゲルは辺りに目を配る。見晴らしの良い広大な草原と、向こうで草を食む大羊。今のところ彼が警戒するべきものは見当たらない。しかし不意に、馬車から少し離れた場所で破裂音が聞こえた。彼は反射的にそちらに意識を集中させる。
「何の音でしょうか」
「……」
「お嬢様?」
ロッタは驚いた顔をして立ち止まった。そして右から左へと目を滑らせる。
「結界が壊れてる」
「は?」
「破石? でも、そんなこと誰が……」
ミゲルの問いかけは彼女には届いていないようだった。しかし馬車の周辺で騒動が起きているのが目に入ると、ロッタの言う通り、『何か』が起きているのは間違いないようだ。
「お嬢様、とにかく、皆のいるところへ戻りましょう」
「ええ」
二人が歩き出そうとしたその時。
人々の騒ぎが一段と大きくなった。ほとんどの人がある方向へ目を向けている。それにつられてロッタとミゲルも街道の向こうを見た。
「あれって……」
「盗賊ですね」
間が悪い。ミゲルは思わず舌打ちしそうになり寸でのところでこらえる。盗賊が向かっているのは馬車のある方、二十人ほどの一団は二人には気づいていないようだった。しかし方向から言って、二人が戻るには、勢力がぶつかると予想される地点の丁度真ん中を通っていかなければならない。かといって遠回りをすれば、なおさら味方から遠ざかることになる。
ロッタもそのことは理解しているらしく踏み出した足を止める。そしてしばらく考えた後、ミゲルに向き直った。
「ここで終わるまで待ちましょう」
「……しかし、もし盗賊が私たちの存在に気づいたらどうなさるのですか」
この状況では戦場を突っ切るか遠回りするかの二択は選びたくない。しかしだからといってここで待つのも勇気がいる決断だった。
「きっとわたしたちがいないことにはすぐに気づくはずよ。散策に出るということは伝えてあるから、殿下かジーン様に連絡が入れば、すぐに兵士が迎えに来る」
ロッタは真剣な表情で続けた。
「それに、自衛手段ならわたしも少し持ってるわ。こんなことは想定していなかったけど、持って来てよかった」
彼女が掲げたのは小さなハンドバックだった。ミゲルは
「
「ええ。黒魔法は組み込むのが難しいからほとんどないけれど、
金箔がつけられた質素なブローチ。そうと分かっていなければ、魔道具だとは思えない外見だった。
「それはお嬢様が身に着けてください。万一敵が襲ってきたら、私のことは構わずご自分の安全を確保なさってください」
ミゲルの言葉にロッタは強く頷いた。
「ちなみに、魔法は使えますか」
「……
そう言うと彼女はミゲルに向けて防御魔法を唱えた。その瞬間、『防御』と言うには余りにも
魔法を使うには二つの才能が必要だ。一つは魔力の潜在量。もう一つは古代魔法言語を解する才能。魔法言語を魂に刻むことが出来なければいくら魔力があっても魔法は使えない。その逆も然りだった。しかしミゲルは自らにかかった魔法を感じて、安心したような表情を浮かべる。
「十分です」
向こうで一段と大きな声が聞こえた。ついに盗賊と兵士たちが衝突したようだった。盗賊の中でも一段と大柄な男が
しかし兵士たちは一歩も後退せず、僅かな隙を見極めて攻撃を仕掛ける。訓練された見事な連帯によって、じわじわと盗賊は追いつめられていた。ロッタはそのとき、ルーナの傍で風を操る半透明の少女を目にとめた。
(いつもルーナ様と一緒にいる幽霊……。害はないと思っていたけど、害どころか、すごく便利)
風姫に聞こえたら怒り出しそうな感想を抱いて、彼女は『幽霊』を凝視する。どうやら風を操って盗賊を落馬させているらしい。ルーナの手助けも相まって、盗賊は初めの勢いを失いつつあった。