12話
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サイオンデール湖畔の宿場町から二日後、ようやく一行は国境に辿り着いた。国境の砦では両国から派遣された兵士が通行者を取り締まっていたが、両国の良好な関係のおかげか、物々しい雰囲気は感じられない。どうやら兵士たちは、辺境に位置する国境地帯を通る、旅人たちの安全を守るという一点に集中しているようだった。一行は難なく国境を通過した。その呆気なさは、馬車で仮眠をとっていたロッタが、ミュラーに言われるまでエアデルト領に入ったことに気づかない程だった。
国境を越えてからまもなく、広い草原で昼食を兼ねた休憩が取られることになった。そこは山脈と山脈の間であり、魔物が時折出ることから、馬車にはめ込まれている魔石に加えて、到着後すぐマティス卿による結界が敷かれる。しかしどこまでも続きそうな広大な草原は、数頭の巨大な羊が見えるだけで穏やかなものだ。
大羊は馬の数倍もある体格で四つの角を持っており、襲われれば一溜まりもないように思われる。しかし見た目に反して性格は臆病であり、こちらから攻撃を仕掛けなければトラブルが起こることもない。ロッタは結界を施すマティス卿を見ながら、長時間の移動によって凝った身体をほぐすため、散策に出かけることにした。
ロッタと時を同じくして、ルーナもまた散策に出ていた。傍らにはシリウスとレグルス。そしてロッタとルーナ以外の人間には認識されていないが風姫も付き添っていた。
ルーナは牧歌的な風景を
(兄様のところに行きたいけど、それはちょっとまずいよね)
ため息を零したところで、ルーナは不意に誰かが横に立つ気配を感じた。彼女がそちらに首を向けると、そこにはランバート子爵令息ニコラスが立っていた。彼は旅の道中、ルーナに言いがかりをつけては彼女に引かれるという悪循環を繰り返していた。それは
「おまえは僕に対するのと、殿下たちに対するのではまったく態度が違うのだな」
「えっ?」
何とか話題を振ろうと頭を絞らせていたルーナに、ニコラスは不躾にそう言い放った。思いもよらない言葉にルーナは思わず声を上げる。
「僕は見たんだ。殿下やジーン様に頭を撫でられたりして笑っていただろう」
詰め寄るニコラスに、ルーナは訳が分からず混乱する。
「えーと、確かに頭は撫でられましたが、特にわたしが頼んだわけではありません。それに、わたしが殿下の行動を断る方が失礼だと思うのですが」
「じゃあ僕が頭を撫でてやる」
「は?」
彼の論理の飛躍にルーナは早々についていけなくなった。彼女は思わずぶっきらぼうに返事をする。
「……遠慮します」
ルーナの短い返答に、それまでにやついていた彼は途端に顔をひきつらせた。
「なんて生意気な奴なんだ! この僕がたかが男爵令嬢のお前ごときに、こんなにも親切にしてやっているんだぞ」
(誰も頼んでない……っていうか、親切にされた覚えは皆無ですが?)
うんざりしてこれ以上は時間の無駄とばかりに踵を返すと、ニコラスが彼女の肩を乱暴に引いた。
「待て! まだ話は終わってないぞ! 僕の家が子爵家だからか? もっと上位の貴族じゃないと態度を改めないというんだな。なんてあばずれだ!」
ルーナは一瞬呆然とニコラスを見つめた後、わざとらしく大きなため息をついた。彼女の態度になおさら怒り狂ったニコラスは、「痛い目に遭え!」という言葉と共に、ズボンのポケットから取り出したものを思いきり地面にたたきつけた。
それは爆竹のような破裂音と共に大量の魔力を噴出する。同時に結界が呆気なく壊された。
「結界が……どうして!?」
「どうやら
状況がよく呑み込めていないルーナに、足下にいたレグルスが答える。
破石。それは宝石や魔石に魔力を蓄え、組み込まれた魔法を爆発させるもの。主に結界を破壊したり、人に向けて投げ、爆弾のように使用されたりする。
ルーナの視線を受けてニコラスはただ「知らない」と繰り返した。遠くにいるリュシオン達はこの状況を察知したらしく、何が起こったのか未だに理解できていない人間に指示を飛ばしている。マティス卿は難しい顔をして再度魔石による結界を張ろうとしていた。
(とにかく、彼のお父さんを呼ぼう)
そう決めて、ルーナがヨアヒムを探そうとしたその時――。
ヒュンッと音を立てて、一本の矢が馬車近くの木に突き刺さる。驚いた馬が嘶きを上げると同時に、さらに次の矢が射られ車体に当たった。
「盗賊だ!」
危機を知らせる大きな声と共に、街道の向こうから馬に乗って武器を掲げた男たちが現れた。