10話
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「わたしは元々、命の危険があるほどの魔力を持っていたのです」
ロッタの口から出た予想外の言葉に、ジーンとミュラーは信じられないような顔をする。しかしリュシオンは目を細めて続きを待った。
「幸いにもわたしの母が白魔法の使い手だったことから、母がわたしの魔力を外へ移し、封印することで一命を取り留めたのです」
「外へ移す? そんなことが可能なのか?」
今まで聞いたことのなかった方法にリュシオンは思わず声を上げた。そんな方法があるのなら、もっと有名になってもおかしくはないはずだ。
「ええ。しかしそれには多くの条件と、高度な技術が必要なのです。まず、術者は対象者の血縁でなければなりません。そして移すだけの魔力を一旦術者の体内に留めなければならないのです」
ミュラーを除く二人の青年は、それがどれほど危険かということを察したようだった。そもそも魔力を移さなければならないほどの潜在量を持つ対象者である。その魔力を体内で保管して、術者に身体的な被害が出ないはずがない。
「お二人はお気づきですね。わたしが生きながらえたのは母の犠牲によるところが大きいのです。しかしこれはほとんど禁忌と言ってもよい方法。だからこそ『安全に』移す研究の必要があります」
二人の深刻な顔と、ロッタの『母の犠牲』という言葉に、ミュラーは詳しいことは分からずとも、それが深刻な問題であることは理解した。
「……そんな話を、私たちにして良かったのかい?」
しばらくの沈黙ののち、ジーンは静かに口を開く。彼女の告白がいかに彼女の
「隠したところで事実は変わりません。それに殿下は薄々気づかれていたのではありませんか?」
「……ああ。お前が大量の魔力を保有していたのに、なぜか今はほとんどないことには気づいていた。それが使用による枯渇ではなく、人為的に奪われたものだということにも」
マティス卿と初めて会ったときに彼が言っていたことをロッタは覚えていた。膨大な魔力を持つ人間は、それが枯渇しても跡が残る。リュシオンにはそれが見えていたのだろう。
「お前がこれを話したのは、俺に気遣ってのことだな?」
リュシオンは確信を持って彼女を見る。
「実際にはお前のような境遇の子供は少ない。その研究が役に立つときがあるとすれば、魔力を暴走させる恐れのある子供に、魔力の放出の仕方を教えたり、一時的に別の場所に保管したりすることによってだろう」
ロッタは黙って彼の言うことに耳を傾けていた。ほとんど断言とも取れる言い様に、はいともいいえとも言わない。ただ一同にはそれが無言の肯定であることは容易に想像できた。
「ロッタ、こちらを見ろ」
固いながらも優しい声に導かれるようにリュシオンを見た。夜空のようにきらめくラピスラズリの瞳に彼女が映る。少し困った様子でリュシオンを見る彼女の顔。
「お前にどのような事情があれ、お前のしている研究は尊敬に値するものだ。俺に出来ることがあるなら喜んで協力しよう」
瞳の中の彼女が、少しの間をおいて目を丸くするのを見た。リュシオンに意識を移すと彼は少し意地悪そうな顔で彼女に微笑んでいた。
「私にもぜひ手伝わせてほしいな。君の研究の邪魔にならなければね」
「邪魔だなんて。……殿下、ジーン様、本当にありがとうございます」
ロッタはきっと自分が情けない顔をしているのだろうと思った。しかし彼女はここになってようやく本当の意味で母の死を受け入れられたような気がした。
(お母様、きっとあなたが望んでらしたことを、わたし、経験している気がするわ)
夢の中に出てきて、ロッタに優しい表情を向ける彼女に、今度は胸を張って会えるだろう。
「なあ前から気になっていたんだが、ジーンやユアンは名前で呼ぶのに、なぜ俺は殿下なんだ」
「は、はい?」
しんみりとした空気を
「リュシオンはロッタに名前で呼んでほしいんだよ」
解析されたら恥ずかしいらしい。見るからに発言を後悔しているようなリュシオンの顔が目に入った。
「いえ、ですがそれは」
失礼を通り越して文化的にダメなのでは。彼女は一瞬そう思ったが、よく考えてみればジーンやルーナもそう呼んでいる。
「……よろしいのですか?」
「……ああ! 良いといってるんだ! なんなんだこの空気は」
一々大真面目に反応するから茶化して言ってもこの態度である。何故だか自分がわがままを言っているような気分になり、リュシオンは頭を掻きむしりたくなった。
ジーンは調子を狂わされているリュシオンと、大真面目なロッタのコントラストがすっかりツボにはまったらしい。時々「腹が……」などと言いながら珍しく大笑いしている。
そうしてミュラーは微妙に輪に入れていない気がしながら、のどかな旅は順調に進んでいったのだった。