10話
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離宮を出発してから1時間ほどが経った。最初は初対面の人物にやはり少し人見知りをしていたロッタだったが、そのころになると堅苦しい雰囲気もなくなりすっかり打ち解けていた。リュシオンとジーンの話に時々
いつの間にか馬車は王都の門をくぐり、窓の外は農地の広がる牧歌的な風景に変わっていた。
クレセニアとエアデルトは隣接するものの、国境のほとんどを険しい山脈に隔てられている。そのためメレディス街道かトーレス街道のどちらかを通って入らなければならなかった。今回は急を要するということもあり、一番の近道で治安も良いメレディス街道を通ることになった。
しかし魔物が出没しやすいメイデル山脈付近は注意が必要だ。予定では、エアデルトには十日ほどで到着することになっていた。
「お嬢様はレングランド学院で
カタカタと規則正しい音が聞こえる馬車の中で、ミュラーは心底感心したような声色でロッタに話題を振った。国内有数の学院であり、また魔法に関しては世界の最先端を行くレングランドの研究機関に、若干十四歳で出入りしているのは、事実彼女くらいなものだった。
「……ええ。本来の目的は別の所にあるのですが。成り行きで魔道具の研究もお手伝いすることになりました」
「そうなのですか。しかしそれならなおさら、素晴らしいことではありませんか」
彼女の謙遜は、ミュラーには好意的に映ったようだった。ロッタは彼の反応に心の中で胸をなでおろす。レングランド学院も出ていない、そもそも学校に入ってすらいない小娘に何ができるのかと反感を買いそうな自覚は彼女にもあった。それがエリックや、ひいてはネグロ侯爵家の悪評に繋がることをロッタは恐れていたのだ。
「……わたしは
それはリュシオンやジーンには実感をもって理解できないことだった。ルーナやロッタの兄たちにもである。ただミュラーは彼女の言葉に腕を組んで深くうなずく。
「お嬢様のおっしゃることはよくわかります。御覧の通り、私も魔法にはてんで疎い身ですので、進むのは剣術の道になりましたが。広く白魔法が世に普及すれば、きっと犯罪も減ることになるでしょうな」
ミュラーが言うのはロッタが願ってやまない、研究の行きつく理想的な世界だった。ロッタは彼の言葉に自然と笑顔になっていた。春が訪れたかのように素朴な、純粋な笑顔に、ミュラーもつられて破顔する。
「それにしても本来の研究とは何なんだい?」
ジーンは二人に横やりを入れるように言葉を発した。
「盛んに行われている研究ではないのですが、一言で言うと『魔力を安全に移す』研究です」
「『移す』とはどういうことだ?」
「……」
彼女は何から話すべきか迷った。何を話すべきかということも。しかしかつて魔力の暴走を引き起こしたリュシオンを前にして、彼女自身の境遇を話さないのは誠意にかけているような気がした。