9話
夢小説設定
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そうこうしているうちに馬車は離宮にたどり着いた。外には旅に使う三台の馬車が用意してあり、その周りには護衛と思われる十数人の兵士が規則正しく並んでいる。遠くに見送りの役人や文官がおり、馬車の近くには乗車を待つ人間がすでに多く集まっていた。そこにはアイヴァンやジーンの姿も見える。
エリック、ランデンに続いてロッタは馬車を降りる。エリックは頭を下げる護衛や文官たちに手を上げると、公爵親子に近付き一礼した。
「公爵、この度は
「ああ。しかし伯爵は旅日和とはいえ、ロッタ嬢を遠くにやるんだ、気が気でないだろう」
「痛いところをつきますね……」
(公爵も同じ心境よね、きっと)
ロッタは彼らの会話を聞きながらルーナを探した。すぐにマティス卿とルーナの姿が見つかり、彼女は目を細める。離宮まで二人で歩いてきたらしく、文官が焦って話しかける声がこちらにまで届く。
しばらく二人を眺めていると、不意にルーナと目が合った。ロッタは誰にも見つからないように小さくうなずくと、ルーナもそれに応えるように控えめな笑みを浮かべた。
「殿下の馬車だ」
誰かの声を合図に、その場で全員が頭を下げる。
「皆、ご苦労。頭を上げてくれ」
リュシオンは進み出たアイヴァンと少し話すと、早々に待機していた先頭の馬車へと乗り込んでいく。
「では皆様もご乗車を」
役人の言葉に、待機していた者たちもそれぞれの馬車に乗り込んだ。
「ロッタ、一つ兄様が助言をしよう」
いよいよロッタも乗車しようとしたその時、エリックは唐突にそう言った。
「助言?」
「ああ。誰かの行動の意図を知りたいときは、逆のことを考えてみるんだ。例えば、ランデンが第三週の光曜日に屋敷に帰って来ないのは、帰ると君の家庭教師に鉢合わせるからなんだよ」
「俺を例えに使うなよ……」
しかし図星なようだった。ロッタの家庭教師は、ランデンがネグロ侯爵領にいたころ彼の家庭教師もしていて、顔を合わせると気まずいのだろう。思わぬところに飛び火して嫌な顔をするランデンにロッタはクスリと微笑んだ。
「逆のことね。分かったわ。いってきます、兄様」
「気を付けて行っておいで」
「いいか、逃げる、隠れる、助けを呼ぶ、だぞ」
「分かってる」
ランデンが文句を言いだす前にロッタは慌てて馬車に乗り込んだ。
入口から中に目を向けるとすでにリュシオンとジーンが乗り込んでいた。もう一人の同乗者である近衛兵の手前、彼女は礼儀正しく口上を述べる。
「王太子殿下にご挨拶申し上げます。エアデルト王国までの道中をご一緒させていただき、光栄の至りに存じます」
「そうか。……ロッタ、そうかしこまる必要はない」
ロッタが驚いて顔を上げると、そこにはいつも通りのリュシオンとジーンの姿があった。むしろリュシオンは彼女の丁寧すぎる態度に、楽し気な表情でロッタを見ている。
「長い旅になるからな、お前が俺やジーンとは昔から交流があることはすでに伝えた」
話題に上がった近衛兵はスッと立ち上がってロッタに礼を取った。
「今回の派遣の護衛隊長を任されております、ナサニエル・ミュラーと申します。どうぞミュラーとお呼びください。殿下からお嬢様のことはお伺いしておりますので、私に気を遣っていただく必要はございません」
「そうですか。ご配慮ありがとうございます。クラリス・ロッタ・ネグロです。道中、よろしくお願いします」
「はっ」
ミュラーはロッタが座るのを待って再び腰かけた。ロッタの向かいにはミュラーとリュシオン、右隣りにはジーンが座る。聞くところによると、マティス卿とルーナは二番目の馬車、ミゲルは三番目の馬車にそれぞれ乗車するようだった。
その他に外交官とその子供、数人のレングランドの技術者を乗せて、馬車の扉が閉まる。護衛が全員騎乗したのち、彼女を乗せた馬車はゆっくりと出発した。
ロッタは窓のカーテンを開けて外を見る。護衛の馬の向こうに兄たちの姿が見えた。優しく微笑むエリックと、仏頂面ながらロッタから目をそらないランデンの姿に彼女は手を振った。