9話
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エアデルトへの出発の日。今回の派遣は非公式のため大々的に正門を通るわけにもいかず、少数の使節団でひっそりと行くことになった。出発地として白羽の矢が立ったのは、王宮の西に立つ静かな離宮だった。
ネグロ侯爵家の馬車には、三人の兄妹たちの他にもう一人乗っていた。年はエリックよりも少し上、20代半ばくらいの黒い長髪を一つにまとめた男だ。眼鏡から
「……というわけで、彼はいざとなったらロッタの盾になってくれる。くれぐれも頼んだよ、ミゲル」
ミゲルと呼ばれた男性は、エリックの言葉に一礼した。小さく揺れる馬車の中で、彼女はつい先ほど紹介されたその男をまじまじと見つめる。
彼はエリックが使節団に同行させた『侯爵家の使者』だった。つまりネグロ侯爵家に関わる政治的な話は全て彼が行うということである。基本的には文官なので剣術は基礎しか習得していないらしいが、エリックはロッタの安全を最優先として彼に職務に当たらせた。
むしろ重要性を
「わたし、出来るだけの用意はしてきたわ」
「本当かよ」
「本当よ。家系図もなんとか覚えたし、一通りのことは自分で準備できるし……。それにほら」
疑いの目で彼女を見てくるランデンに、ロッタはハンドバックの中身を見せた。そこには多種多様な装飾品が収納されている。
「……なんだこれ。おまえ、エアデルトで商売でも始めるつもりか?」
斜め上を行くランデンの反応に、エリックはこらえきれず吹き出した。ロッタは彼とは正反対に心外とでも言うように頬を膨らませる。
「違うわ、全部
「あーもういい! それで自衛したつもりかよ。いいか、危なくなったらすぐ逃げろ。隠れろ。助けを呼べ。豊穣祭のときみたいに一人で突っ走るんじゃないぞ」
「分かってる」
全然分かってなさそうな返事にランデンは白い目で彼女を見たが、当の本人はどこ吹く風だった。遊びに行くわけではないのだ。リュシオンやジーンたちの邪魔をするつもりもない。
ようやく笑いの収まったエリックはそんな二人を見てランデンに言った。
「だけどこのうちのいくつかの魔道具は、ロッタが軽量化に成功したものなんだよ。特に<防御>の魔道具なんてすごいじゃないか」
彼はハンドバックの中にある、ブローチ状の魔道具を指さした。<遠話>のピアスのように、魔法が組み込まれた土台に宝石を付けるなどという
しかしランデンはそれを
「私はロッタがそういう方法で力を発揮してくれるのを誇りに思っているよ」
「兄様……」
ここにミゲルがいなければ、きっと彼女はエリックの胸に飛び込んでいたことだろう。しかし今日ばかりは、感動と感謝のこもった視線で兄を見つめ返すことしかしなかった。