6話
夢小説設定
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その日、エリックはいつもより早く帰宅した。普段は日が暮れてからしか帰ってこない彼に、屋敷の使用人の面々は目を丸くして慌てて頭を下げる。そんな彼らの様子に苦笑しながら、エリックはいつの間にか多忙が普通だと思われていた自身の扱いに少し無念さを感じた。
王太子と別れた後、彼は宣言通り庭園に足を運んだ。ロッタに言われていた通りバラのアーケードを抜けるとそこには長い間姿を見てすらいなかった王女、ネイディアの姿があった。
彼女はどうやら机に突っ伏して寝ている様子で、紅茶を飲んでいるうちに夢の世界へ旅立ったらしい。傍に控えている侍女がエリックに気が付きどう対応しようか迷う素振りを見せた。彼はそんな侍女を片手で制すると、彼女の座る席の向かい側に静かに腰かけた。
しかし人の気配が伝わったのか、ネイディアは身じろぎすると、瞼を擦りながら頭を起こした。
「ロッタ……?」
まだ寝ぼけた様子で呟いたその言葉に、エリックの持っていた絵葉書がわずかに揺れる。ロッタがネイディアのことを可愛がっていたのは彼の耳にも届いていた。しかしネイディアの態度からもその関係は良好だったことが窺える。彼女の紅茶色の瞳が完全にエリックを捉えた瞬間、彼は立ち上がっていつものように柔らかい物腰で挨拶した。
「お休みのところを失礼いたしました。王女殿下にご挨拶申し上げます。ネグロ侯爵の長男、エリック・イルベス・ネグロと申します。覚えていらっしゃいますか」
彼の記憶が正しければ、ネイディアと最後に会ったのは彼女が五つの誕生日のころだった。しかし彼女の様子を見ればそれが初対面の人間に接するそれだというのは嫌でも分かる。
「あ、あの、ごめんなさい。わたくし、きっと幼いころにお会いしたことがあるのね」
「お謝りになる必要はございませんよ。もう六、七年ほど前のことでございます」
ネイディアは彼の落ち着いた話しぶりにロッタの面影を見出した。顔立ちは全く似ておらず、ついでに言うと雰囲気も似ても似つかないが、しかし彼女の兄だというだけで親近感が湧くには十分だった。
「ロッタは、元気にしている?」
「ええ。……今日は妹からこれを預かってきたのです」
彼はそう言うと持っていた絵葉書を机の上に置いた。恐らくほとんどが王妃に握りつぶされ彼女に渡っていなかったのだろう、ロッタは毎日のように送っているはずだったが、彼女は珍しいものを見るような反応をした。
「もう少し王女殿下とお話ししたいところではございますが、立場上長居は出来かねます」
エリックは一方でそっけない反応をした。長年会っていない親戚にする反応としては違和感はないのだろうが、彼がこのような反応をすること自体珍しいことだった。しかしそうとも知らないネイディアはまるで慣れたことのように彼の言葉にうなずいた。
「あの、わたくし、お母様のご機嫌が直ったらぜひロッタに会いたいの。手紙の返事を書いて送ると、伝えていただけないかしら」
「もちろんです。それでは、くれぐれもご自愛ください」
颯爽と去っていくエリックを侍女たちは魂が抜かれたように見つめていた。しかしネイディアはロッタの葉書を見て、明るい笑顔を浮かべたのだった。