5話
夢小説設定
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一方そのころ、会議を終えたエリックも同様に貴族たちとの雑談を済ませ、一人で廊下を歩いていた。向かうのは王室の庭園。彼は優雅かつ迷いのない足取りで似たような景色の王宮を進んでいく。
「エリック」
しかし彼は後ろから追いかけてきた人物の呼び声で足を止めた。そのままゆったりとした動作で後ろを振り向くと略礼をする。
「今はヴィンセント伯爵と呼んだ方が良かったか?」
「いえ、どちらでも構いませんよ。王太子殿下にご挨拶を」
押しても引いても眉一つ動かないエリックにリュシオンは苦い顔をした。そして顔つきは違えど顔立ちだけは似ているクラスメイトを思いだす。
(ランデンと足して二で割れば丁度いい性格になるんじゃないか……)
考えてみれば名案のように思えてきた。しかしそんな考えを振り払い、今は目の前の『政敵』に集中する。
「今回の件、初めから白魔法使いの派遣にロッタを加えることが目的だっただろう」
エリックは唐突なリュシオンの発言に面食らった表情をした。しかしすぐにいつもの笑顔に戻るとリュシオンの目を捉える。彼は一瞬の後に王太子にどこまでを告げるか吟味して、それを感じさせないまま応対する。
「そうですね。少し考えれば今のネグロ侯爵家に使節団を出すほどの人間と余裕がないのは分かるでしょうに、彼らは必死になって私の提案を却下してくださるので助かっています」
虫も殺せなさそうな顔からはおおよそ想像もつかない発言に、リュシオンは未だ慣れず目を細める。しかし腹にいくつもの思惑を持っているであろう彼が、リュシオンに対してその内の一つや二つでも明かしてくれることは利点はあれど害はない。
「なぜロッタをエアデルトに行かせる? 豊穣祭のあとから詳細を調べてみたが、国内でも縁談に対して良く思わない輩が一定数いると聞いた」
ランデン同様、妹に甘い彼だけに、今回の行動は輪をかけて読めないのであった。
「ええ。だからこそ使節団に同行させるのです。あの子の立場が不安定なままでは、私も気が休まらないというものですよ」
「おい、誤魔化すにしても、誤魔化すつもりで言えよ」
投げやりなエリックの言い草にリュシオンは素で突っ込んだ。
しかしエリックはそれに曖昧な笑みで応えると、「それはそうと……」と言って懐から一枚の紙を取り出した。リュシオンはそれを興味深そうに眺める。それは咲き始めのアイリスの絵が描かれた葉書だった。
「今日の本当の目的は別にございまして」
「……それか?」
「ええ。ロッタから、貴方の妹君に葉書を預かっておりまして。まあ私の従妹でもあるのですが」
リュシオンは今度こそ苦い顔をした。
「この時間だと庭園にいらっしゃるとロッタから聞き及んで向かっていたのですが、私が
「もういい。問題にはしないから早く行け」
「そうですか。では、そのお言葉を信じます。失礼いたします」
エリックは一礼して今度こそ歩みを進めた。今までと同じように優雅な足取りで、虫も殺せないような優しい表情で。
「なんだ、またしてやられたのか」
その声の主が誰なのかは振り向くまでもなく分かっていた。
「一つだけ収穫があったような……気がする」
「やけに歯切れが悪いな」
国王はリュシオンの顔を見てニヤニヤと不敵な笑みを浮かべる。
「『ロッタに傷一つでも付けて帰ってきたら、どうなるかは言うまでもないよな?』という脅し文句が聞こえてきたな」
国王は一瞬きょとんとした後、豪快に笑いだした。エリックは確かに思ってそうだと妙に納得したのである。そんな父親を見てリュシオンはエリックに向けるのとはまた別の嫌な表情を浮かべた。
「つまりだ、エリックがロッタの意思を越えて政治利用しようとすることはない。それが分かっただけでも注意すべきところが減ったということだ」
リュシオンは笑いの収まった父親の方を向いた。そして彼と同じような不敵な笑みを浮かべると、元来た道を戻っていったのだった。