4話
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天井に
「次はエアデルトからの要請についてだな。クライン伯爵」
「はっ」
国王に名指しされたクライン伯爵は、
「先日エアデルトより、白魔法使いの派遣を要請されました件についてご説明させていただきます」
彼はよく通る声でテーブルに着席する面々を見渡しながら状況を報告した。その内容は、エアデルト国王が原因不明の病に冒されており、魔法大国であるクレセニアに白魔法使いの要請があったということだった。
そしてもう一つ、国王が病に伏せる直前に庶子の男子の存在と、彼を王室に迎える旨が発表されたことにも言及する。
「その直後に国王が倒れられたこともあり、その発表と病との関連についても取りざたされているようです」
伯爵の言葉によって貴族は口々に自分の見解を述べる。国王は黙って彼らの話に耳を傾けた。
「確か十数年前、エアデルト国王の
「なんにせよ突如現れた庶子か。そのうえその者を王族として正式に迎えるとなれば、様々な思惑が飛び交ってもおかしくないですのぉ」
「エアデルト国王の嫡子は、王太子おひとり。その王太子と言えば、幼き頃は命も危ぶまれるほど病弱であったとか。今は健康になったと聞き及んでおりますが、やはりなんらかの不安があっての今回の処置でありましょうか……」
フォーン大陸にある大半の国は創世の五柱神をあがめており、父なる神シュトが
しかし憶測でものを言っても仕方がないため、リュシオンは彼らの雑談に割って入った。
「我が国としては王位争いなどで火の粉をかぶらぬよう、引き続き動向に気を配るしかないだろう。当座の重要事項は白魔法使いの派遣についてだ。優秀な魔法使いは国の宝。エアデルト行きは万全でかからねばならない」
「うむ。軽んじられないようにある程度身分があり、腕が立つものが同行すべきだろう。……俺の名代としてリュシオン、お前が行け。そしてリュシオンの補佐にはジーンが良いだろう」
国王からの指名にリュシオンは「わかった」と短く答え、ジーンもまた「御意」と頭を下げた。
「陛下」
国王が次の議題に移ろうと口を開きかけたとき、穏やかだが有無を言わせない声が彼の右側、リヒトルーチェ公爵やジーンたちと
「なんだ、ヴィンセント伯爵」
国王にそう呼ばれたのはエリックだった。クレセニア王国では多くの爵位を持つ大貴族の場合、一番高い地位を当代が、二番目に高い地位を嫡子が名乗ることを許されており、彼もそれに倣ってヴィンセント伯と呼ばれていた。しかしネグロ侯爵が不在の今では彼が事実上の侯爵家当主であった。
その場の面々が一挙一動に注目する中、これから詩でも読むかのような落ち着きぶりはある意味異様な雰囲気を漂わせていた。相手を不快にさせることなく、しかし自分の要求を巧みに飲ませる手腕は彼が父親とは一線を画す人物であると悟らせるのに十分だった。
「この場にいらっしゃる方々はすでにご承知のことと思いますが、私の妹、クラリスはエアデルト王国の王太子と婚約しております」
急な話題転換に何人かの貴族は
「彼女や我がネグロ侯爵家が今回の騒動に巻き込まれることは必然。私といたしましては、陛下に一刻も早いエアデルト王国訪問をご許可いただきたいのです」
彼の発言に早速異を唱えるのは国王派の貴族たちである。
「このような重大な問題を前にして、貴公は家門の心配をなさるのか!」
「そうだ。まずはエアデルトと我が国の関係悪化を防ぐために何をするべきかを考えるべきだろう」
彼らの主張は耳に心地よいものだったが、その実、対国王派筆頭とも言えるネグロ侯爵家に良い思いをさせたくないという野望が透けて見えた。国王は黙って成り行きを見守っている。
「いえ、それは違います。クレセニア王妃を排出し、要職も担っているわが家がエアデルトと関係を悪化させることは、そのままクレセニアとの関係悪化につながるのです。そもそも亡きユング公爵は縁談を結ぶ際、『両国の関係を強固なものにする』ことを成果としてエアデルト国王にご報告なさいました。もちろんわが家としましてはすぐに抗議いたしましたが、彼らの縁談の認識がそうであることは覆しようがございません」
一同は先ほどの勢いをなくし静まり返った。エリックは今回の縁談が、侯爵家の努力もむなしく大々的に取り上げられていることをあえて強調して国王に訴えかけた。
「しかしですな。この時期に侯爵家が我が国の派遣とは別に派遣を行うことはいささか勝手が過ぎるのでは?」
「そ、そうですな。クレセニア国内で意思統一が出来ていないと思われる可能性がある」
一人の貴族の発言を皮切りに、国王派は口々に同意を見せた。エリックは自分の言いたいことは言ったという素振りで、国王、王太子、リヒトルーチェ公爵親子を順に眺めた。
「ならば、派遣団にネグロ侯爵家の人間も加えよう。いいな?」
貴族たちがひとしきり言い終わったあと、国王は目頭を押さえてそう言った。
「陛下のご配慮に感謝いたします。詳細はリヒトルーチェ公爵並びにクライン伯爵に報告いたします」
国王は彼の言葉にうなずくと、次の議題に移っていった。