3話
夢小説設定
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見晴らしのいい中庭は昼休みになると食事や運動のために大勢の生徒で賑わう。しかし校舎からしばらく歩いていくと途端に生徒がほとんどいない『穴場』ともいえる場所にたどり着く。研究所と校舎の丁度中間に位置するその場所は彼らの交流にはうってつけだった。
「ユアン、フレイル、連れてきたわよ」
「やあロッタ。一週間ぶりかな」
アマリーの声にユアンはすぐロッタを捉えると柔らかな笑顔で話しかけた。フレイルはその横でペコリと軽く会釈する。
「ええ。こんにちは。今日は午後から実習じゃないんですね」
「そうなんだよ。食べてすぐ実習だとゆっくりしてられないんだけど、今日は授業なんだ」
ね、と彼は隣の友達に同意を求めた。フレイルはああ、とそっけない返事をする。しかし周りの少年少女たちはその無愛想も彼の魅力だと十分に理解していた。
「兄様も誘ったんだけど、今日は休暇を取ってるのよ」
ロッタは彼女たちの兄、リヒトルーチェ公爵の長男を思い浮かべた。
ジーンはまだ成人を迎えておらず学生の身分ではあるが、リヒトルーチェ公爵家の嫡男として重要な会議には参加することを許されていた。その際には学院を休まなければならないことも多く、今日もそのような事情があるのだろう。
「ジーン様もご多忙なのですね。わたしの兄も今日は参内すると言っていました」
「エリック様かぁ、兄様も大変だと思うけど、その点でいえばエリック様はネグロ侯爵家の政務を全部こなしてるんだから、すごいよね」
ユアンの言葉にアマリーは何度も首を縦に振った。彼らがエリックに会ったのは数か月前の一度きりだったが、そのときの物腰から相当いい印象を抱いたのは一目瞭然だった。
「それに、兄様が渋い顔して帰ってくるときは、大体エリック様絡みなのよ。一度王太子殿下とエリック様について零していたのを聞いたわ」
ロッタは愛想笑いを返した。兄が、というよりはネグロ侯爵家が彼らと立場を異にする以上、ある程度の意見の対立は避けられないのだろう。
「だけど兄様があんな顔するのはちょっと面白いわ」
「アマリー様……」
「姉様、だけどエリック様だけとは限らないよ。ランデン様もロッタも、もしかしたらこの兄妹全員ジーン兄様の調子を狂わせてるのかも」
「え、わたしもですか?」
思いがけない言葉にユアンを見る。
「そうよねえ」
「確かにな」
「フレイルまで……」
むしろランデンはリュシオンとジーンに完全に扱い方を心得られているような気がするし、自分に関してはまったく心当たりがない。
「俺には難しい政治の話は分からないが、殿下もジーン様もロッタには一目置いてると思うぞ」
フレイルは昼食を片付けながら彼女の方を見て言った。そしてすぐに立ち上がると、ロッタが何か言う前に、「そろそろ時間じゃないか?」とユアンに話しかけた。
「あ、ほんとだ! 時間が経つのは早いよね」
「わたしも行かなきゃ。ロッタ、研究がんばってね!」
「じゃあ、またな」
「ええ。みなさんもお勉強頑張ってください」
ロッタは慌ただしく去っていく彼らを座って見送った。彼女の昼休みは彼らほどしっかり決まっていない。恐らく研究員たちもまだ休憩中だろうと踏んで少し遅くに帰ることにしていた。
雲一つない青い空の下で、ロッタは先ほどの友人たちの言葉を思い出す。
エリックが幼いころから政治家としての将来を
――それでいいのだろうか。
そんな曖昧な問いかけでは、兄はいつも通りの優しい笑顔で彼女の頭を撫でるだけだろう。
穏やかな外の様子とは裏腹に、疲れを顔に出さず淡々と政務をこなしているだろう兄を想像して、彼女は王宮のある方向に顔を向けた。