3話
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「予想は付くだろうが、ランデンだ」
「ですね。マート卿が目を付けた人間の中で、十分にデータが取れる前に出入り禁止にしたのは彼だけです」
「どちらが悪いかといえば、どちらもと言う他ないのですがな」
学院長は苦笑しながら二人に付け足した。あるいはランデンの妹であるロッタの前だからかもしれない。ロッタはランデンが何をしたのか、聞きたいような聞きたくないような、複雑な心境と戦っていた。しかしやはり、兄の行動の責任は身内が取るべきなのだろう。問い掛けた彼女に、三人を代表してリュシオンが答える。
「俺たちがレングランドにいた頃の話だ。マート卿はどこからかランデンの魔力量についての話を聞きつけて実験体にしようとした。それ自体はいつものことだし、俺やジーンや、魔力が多い生徒たちのほとんどは、正直あいつが犠牲になって良かったとすら思った」
「まあ私は卒業してから餌食になったんだけどね」
「そ、そうなんですか」
魔力が多いとみれば誰彼構わずという噂は本当だったらしい。リュシオンは王太子だから手を出せないとしても、リヒトルーチェ公爵の嫡男であるジーンにまで手を出すとは相当だ。
「だがランデンは大人しく被検体になるやつじゃないだろ? 案の定、付きまとわれるのが頭にきて、戦争が勃発した」
「そんな大げさな」
「いや。一時期、本当に離宮のあたりが生徒見学禁止の無法地帯になったんだよ」
「後片付けには私も駆り出されました」
ロッタは茶化すように言ったが、その後のジーンと学院長の真剣な表情に顔を青ざめさせる。恐らく彼女が学院長と会う前の出来事だろう。ランデンの妹と分かったとき、生徒たちがあれほど騒いだのはそのせいもあったのかもしれない。
「マート卿は魔法師団の副師団長も務めた優秀な人間だからな。当時のランデンを相手にしても怪我はなかった。だが相当懲りたらしくついに諦めた。三カ月くらいだったか?」
「ええ恐らく。だけどランデンもそれじゃ満足いかなかったみたいで、時折地味に精神にくる嫌がらせをしてマート卿を激怒させていたんだよ」
「マート卿の発疹はそれだな。卒業のときにも<変化>で蛇に変えられて、会場中に怒声が響き渡っていたしな」
「そんなこともありましたね」
確かに地味な嫌がらせである。ランデンはそれが最も彼の嫌がることだと把握していたのだろう。
「そもそもの発端がマート卿の行動ですからね。ランデン殿も問題は度々起こしていましたが、それさえ除けば優秀な生徒でしたよ。ご安心ください」
「それさえ、で済ませられるものではなかっただろ」
「まあまあ。今では魔法師団で彼の名前を聞かない日はないではありませんか。レングランドの卒業生が活躍している話を聞くのは、学院長冥利に尽きるというものです」
「マティス卿……」
ロッタは学院長を二回りくらい見直した。彼の寛大さに、人の好さに、素直に感動した。
「マティス卿がそうおっしゃるのなら私たちから言うことはありません。しかし、マート卿の協力を仰げないのは手痛いですね」
緩みきった空気を正すように、ジーンは本題に戻る。途端に深刻さを取り戻す面々を眺め、リュシオンは盛大にため息をつくと深く腰掛けていた椅子から立ち上がる。
「仕方がない。マティス卿、付いてきてくれ。説得しに行こう。さすがに俺から頼めば相手がネグロの人間でも断り切れんだろう」
「そうですな。ロッタ嬢は完全にとばっちりですし、魔道具の成果を魔法研究所から出すのは理にかなっています。私からも口添えいたしましょう」
学院長も納得した素振りで立ち上がる。それに伴ってジーンとロッタも席を立った。
「三人も必要ないだろうからおまえたちはゆっくりしておけ」
「三人、ですか?」
「おまえは除外に決まっているだろう。マート卿に発疹を出させたいなら話は別だが」
そう言われると反論できず、ロッタは二人が出て行くのを見送った。パタンと乾いた音を立てて閉まった扉を彼女はしばらく見つめていた。