2話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ロッタが出て行くのに伴って、部屋にいたレディースメイドたちも退室する。部屋にはミモザを除いて数人のメイドたちのみとなった。
「……いい? これはお嬢様の将来に関わる重要な問題よ。お嬢様には絶対に気づかれないように」
ミモザは声を潜め、メイドたちと目を合わせる。彼女たちは口々に同意する。
「だけどわたしたちは何をすればいいの?」
彼女たちの中では一番若いメイドが、わくわくした表情で質問する。彼女たちは全員年頃の娘である。自分のことではないとはいえ、色恋沙汰には目がない。しかもそれが長年仕えているお嬢様のことなら尚更だった。ミモザはもう一度メイドたちを見渡して、服の中からペンダントを取り出した。わあ、とメイドたちから歓声が上がる。
「先月、屋敷にリヒトルーチェ家のルーナお嬢様が遊びにいらっしゃったでしょ? そのときこの
「どうしてリヒトルーチェのお嬢様がうちのお嬢様のことをお気になさるの?」
「いいえ、ジーン様がお頼みになったのよ」
ミモザの発言に、メイドたちは一瞬静まり返る。
「そ、それじゃあつまり、……そういうことなの?」
おずおずと問い掛けた声に似合わず、その表情は期待に満ちあふれていた。ミモザは彼女たちの反応を楽しむように少し間をおいて、ゆっくりと頷く。その途端、きゃあ、と先ほどよりも甲高い歓声が部屋にこだまする。
「素敵! ねえ、今すぐお嬢様にお知らせしたほうがいいんじゃない?」
「それはダメ。うちのお嬢様がどれだけその手の話に疎いか知ってるでしょ? お嬢様も憎からず思っていらっしゃるはずなのにね。さっきも探ってみたけど、確実に聞き流されていたし」
「それはミモザさんが普段からあることないこと言うからよ」
メイドたちの間でも、ミモザのロッタ至上主義は有名だった。彼女たちはそうだそうだと口々に同意する。遠回しな批判を受けたミモザは少し肩をすくめ、しかしすぐに真面目な顔に戻る。
「それにしたってダメよ。そういうのは、ジーン様本人からが素敵でしょ」
確かにそうだ。彼女たちの脳裏にはすっかり美男美女のカップルが出来上がっていた。そのあたりは身分や立場など関係なく、ルーナと同じ思考回路だった。
「だけどジーン様がいらっしゃるのは用事があるときだけでしょ? お嬢様はにぶ……いえ、少し頭の固い……えっと、純粋な方だから、そんなことじゃ何年経っても気づかれないんじゃない?」
一歩間違えれば悪口になりそうな発言を、メイドは何とかしていい言葉に置き換えようとした。しかし言いたいことは伝わった。
「問題はエリック様よ」
「……ああ、そういうことね」
妄想を膨らませていたメイドたちは、ミモザの一言に我に返る。そういえばミモザなど比ではない、至上主義をこじらせている人間がこの屋敷にはいるのだった。絶対にジーンの恋路を邪魔しまくる人間。エリックである。
用事など持たずに屋敷に来たら確実に門前払い。それどころか用事があっても代理を立てて面会してください、などと言われかねない。
しかしミモザは魔道具ごしにジーンと話した時のことを思い出した。話してみて分かったが、彼もエリックに負けず劣らず用意周到な人間なのだ。特にルーナを差し向ければエリックは素直に通すだろうということや、その隙に内部協力者を調達しようとするところなど、徹底抗戦の構えである。ミモザはむしろそんなところが気に入った。お嬢様に手を出そうとする輩はどこのどいつじゃあ、という言葉は吹っ飛んだ。あの様子なら色々面倒くさい二人の兄たちをかいくぐることが出来るだろう。
メイドたちの深刻そうな雰囲気を壊すように、ミモザは気持ちを切り替える。
「わたしたちがやるべきことは、とにかく陰から手助けすること! エリック様の目をかいくぐって恋愛成就に貢献するのよ!」
こうして、ネグロ侯爵邸には強力な内部協力者たちが誕生した。