22話
夢小説設定
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その後、二人は路地裏に移動してから布を脱いだ。ジーンは彼女の片腕にひっかけられているであろう布を見る。予想通り、彼の目に布は見えず、彼女の腕は消えていた。
「新しい
ロッタは軽くうなずく。彼女が<解除>を唱えると、白い布と彼女の腕が現れる。
「<不可視>の魔法をこめた魔道具です。先ほどは急を要する状況でしたので、説明もできずごめんなさい」
「いや……君が開発したのかい?」
「ええ。ですがルーナの技術も使っているんです。魔法陣を刻める布の開発を、ルーナが最近成功したばかりでして。名づけたのもルーナですよ」
完成品を彼女に見せたところ、『と、透明マントだ……!』と感動交じりの声で言われた。秀逸な名前だったので、ロッタはそれを採用したのである。
当初の目的は、害獣や魔獣の駆除のために、彼らに気づかれずに接近するための手段として開発されたものだった。しかし思いのほか出来が良く、使い方によっては重大犯罪を招きかねないということから一般的な流通は始まっていない。
「これは一番よくできた試作品でして、布に魔石の
魔石とは
「……でも、さっきランデン兄様と目が合いましたよね。絶対見破ってましたよね?」
「そうだな」
「なぜ……。魔力量だけなら、魔石には絶対及ばないはずなのに」
一度こだわりだすとどこまでも突き詰める彼女である。透明マントに使用されている魔石は彼女自身の財産から、エリックの伝手を利用して入手したものだった。生まれてこの方、お金の話から遠ざけられてきた彼女にはあまり自覚がないことだったが、一般的な金銭感覚を持つ人間が聞けば目が飛び出るほどの金額を注ぎ込んでいる。その分、透明マントに使われた魔石は人間では到底保有不可能な量の魔力を保有するものだった。
頭をひねる彼女に、ジーンは考えられる可能性を話す。
「確かに<不可視>の魔法を見破るには、理論上は<魔法感知>か、魔石の魔力より多い量の魔力を持っていなければならない。だが膨大な魔力を持つ人間なら、魔法の正体は分からずとも、そこに『何らかの魔法が発動している』ということは分かるんじゃないか?」
ロッタはきょとんとジーンを見つめたあと、目を開いて納得がいった表情を浮かべた。言われてみればその通りだった。<変化>や<傀儡>などの目に見えない精神魔法の場合と同様に、魔法が発動していること自体を見破るのは、魔力量の多い人間なら感覚的にできることである。しかも膨大な魔力をため込んでいる魔石を使っているのなら、なおさら分かりやすいだろう。
「……<不可視>を見破られないように魔力を増やすと、今度は魔力が多すぎるという理由で見破られるという訳ですか。難しいですね……」
腕にかけられた透明マントを見ながら、ロッタは思わず研究者モードに突入する。しかしそれは二人の姿を見つけた私兵たちによって遮られた。
「こちらにいらっしゃいましたか。お姿が見当たらなかったので、何かあったのかと心配致しました」
ジーンはロッタに一瞬目配せをして、彼らに向き直る。
「あのテラスは危険だと判断して路地に避難していた。問題なかったようだな」
「……はい。しかし後日、事情聴取のため魔法師団に来るようにと言われました」
「分かった。お前たちは屋敷に戻って休め」
「よろしいのですか?」
「ああ。ご苦労だった」
彼の返事を聞き、私兵たち三人はロッタに向き直ると、先ほどの
路地を出ると店は売れ残りを外に出して、店じまいの準備を始めている。太陽は赤く光って大通りを照らす。先ほどの騒動などなかったかのように、店も人々も変わらない様子だった。ジーンは大通りを走っていた馬車を捕まえた。揉み手で二人に話しかけた御者に、彼が「ゆっくり、ネグロ侯爵邸まで」と告げると、御者は驚いた表情で二人を凝視し、慌てて返事をして目を背けた。彼女に手を差し出し一緒に乗り込む。