21話
夢小説設定
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「ロッタ? どうした?」
「……逃げましょう」
「……。は……?」
魔法を使って援護しよう。そう言われると踏んでいたジーンは、真逆の提案に放心して彼女を凝視する。そうしている間にも彼女の顔色はみるみるうちに悪くなっていった。切羽詰まって、今すぐにでも逃げ去ってしまいそうである。
『ラノア・リール・ゼレオム・シード』
混乱しているジーンをそのままに、ロッタは未だ奮戦している私兵たちに向けて防御魔法をかけた。彼女の唱えた上位魔法はほとんど完璧に彼らを保護する。しかしその内容は魔法攻撃に特化した防御魔法、すなわち、今の小競り合いには不似合いな魔法だった。
「彼らは恐らくこれで大丈夫です。ジーン、早く」
「一体どうしたんだ」
彼の手首を掴んでテラスの裏、小さな路地に入っていこうとするロッタを、ジーンは訳が分からずに呼び止める。しかし彼の疑問はロッタの耳には届かなかった。
「ああ、もう来る……」
宙を見て呟いたあと、彼女は肩かけカバンから
『コル・レート・クーダ』
低い声とともに上から人が
唱えられたのは<
ロッタは思わず顔を手で覆う。まさか、彼がこの地区の警護担当だったとは。
「ランデン……」
隣で様子を見ていたジーンが困惑と苛立ちの混ざった声で彼の名を呟く。しかしその声は町のざわめきと、神殿の方からやってきた魔法師団の団員たちの声によってかき消された。
「隊長!」
『ゲイル・ニーク』
ランデンは走ってやってきた団員たちを無視して<消去>を唱えた。<消去>とは、魔法をかけた相手の倍以上の魔力で、発動している魔法を強引に消し去る魔法である。それによって強盗の魔法護符、私兵たちがかけた<檻>、ロッタが私兵にかけた防御魔法が同時に効力を失う。ロッタはすでに見慣れた光景のため驚きはしない。それは慌てて駆けつけた団員たちも同様だった。しかし強盗や私兵たちは、三つの魔法を同時に消去するなどという離れ業に顔色を悪くして彼を凝視する。
「遅いぞ」
「はっ、申し訳ございません」
恐らく屋根を飛び移ってきたランデンと、道を走ってきた団員では到着時間に差があっても仕方がないが、しかし……。
(隊長? 隊長ってなに。ランデン兄様が!? 初耳よそれ)
ロッタは先ほどの団員の発言のほうがよほど気になっていた。向かいの大通りで数人の団員に指示を出す姿は、確かにそれらしくはある。指示を受けた団員は店や店主、町の被害状況をテキパキと確認する。一方でランデンは地面に突っ伏している強盗団に向き直った。もちろん、そのうちの三人はリヒトルーチェの私兵である。
「――さて。俺の仕事を増やすとはいい度胸だな」
ゾッとするほど冷たい声だった。見下されている分、彼らには相当な圧がかかっているだろう。
「お前が頭か」
ブォンと風を切る音とともに、棍棒を大男の右目すれすれに持ってくる。指名された大男は麻痺によって言葉を発することも出来ず、生まれたての小鹿のようにプルプルと震えるしかない。
「何とか言えよ雑魚どもが」
ランデンは強盗たちを順番に小突いていく。彼らはアァ、アゥ、などという意味のない声を発するのみで、その表情は苦悶に満ちていた。恐らく痺れた足を触られたときの数倍はつらい痺れが全身を駆け巡っているだろう。ランデンは無表情ながら妙に楽しそうである。絶対に分かってやっている。
(これじゃあどっちが悪党か分からないわ。……ダメ、ランデン兄様がいるだけで、なぜか魔法師団が悪の親玉とその子分みたいに見えてきた)
団員にしてはとんでもなくとばっちりな感想を抱きながら、ロッタは息を殺して引き続き彼らを観察する。
私兵たちは強盗たちの様子を、肩をすくめて見つめるばかりだった。彼に自分たちは強盗ではないと言ったところで、素直に聞き入れてもらえる可能性は低いと判断したようだ。
やがて被害状況の確認を終えた団員がランデンの元へ集まり、そのタイミングでようやく私兵たちは自分たちの立場を説明した。『リヒトルーチェ』という単語にランデンの不機嫌度が上がったのを、その場にいる誰もが感じ取った。そして――
急にこちらに向けられた視線に、ロッタは心臓が早鐘のように打つのを感じた。片手で布を支え、もう片方の手で口を抑える。
ジーンは横目で彼女の様子を見て、自分たちがかぶっている布の正体を確信する。
「隊長?」
「……行くぞ」
ランデンは短く言い放つと、神殿の方へ身をひるがえした。そのあとを捕縛された強盗とともに団員たちも追っていく。野次馬たちは彼らに道を譲るようにきれいに二つに割れて、彼らが通ったあとにはすぐに集まり彼らの噂話を始めていた。