21話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『ラノア・リール・フォルグラン・シード』
澄みきった声が大通りに響いた瞬間、店主の周りに
「なにっ!?」
男たちは一瞬固まり、リーダーの短剣が魔法に阻まれたことを知ると急いで周囲を見渡した。彼らは大通りを挟んで斜め向かい、飲食店のテラスにいる若く美しい男女を見つけると驚きに目をみはり、次いでリーダーの大男の指示を仰ぐ。
「……やれ」
殺気のこもった小さい言葉に、男たちはニヤリと口の端を歪める。
どんなに信仰の浅い人間であっても、豊穣祭の、しかも五年に一度の大祭期間であるこの時期に、人を殺めることに対して多少のためらいはあるはずだった。しかし目の前の男たちはそんなものなど最初からないように、ひたすら邪魔な人間を排除しようとしている。彼女の胸に言い知れぬ不安が渦巻いた。しかし怯んだ自分を叱咤し、彼女は気丈に彼らを見据える。
ジーンはその様子に心の中で嘆息した。こうなってはロッタを遠ざけたところでさほど効果はない。彼は大通りの向かい側、ちょうど強盗が出てきた宝飾店の、脇道に目をやり小さくうなずく。
「……『ラル・イーデ・セル・カリアス』」
硬い声で唱えられたのは、通称<檻>と言われる結界魔法。内部から外部への移動を制限する中位魔法である。強盗たちは一斉に後ろを振り返ったが、次の瞬間には彼らの頭上に
すっかり人が消え去った大通りに、同じような服を身に着けた三人の男たちが立っている。豊穣祭中とあって、武装は控えめ。ついでに言うと手に持っている武器は殺傷能力の低い棍棒なのだが、佇まいはよく訓練された武人のそれだった。思わぬ手助けにロッタは呆然とその様子を眺める。先ほど聞こえてきた詠唱は十中八九彼らによるものだろう。
「だれ、でしょうか」
思わず片言になるロッタを横目に、ジーンは再度心の中で嘆息してから口を開く。
「リヒトルーチェの私兵だよ」
「は、はい?」
「……実は、念のために護衛をつけていたんだ。いくら豊穣祭期間中だとはいえ、君の身の安全を思ってね」
「……」
その言葉にロッタは押し黙った。せっかく楽しみにしていたお忍びが、実は顔も名前も知らない人間に見守られながらのものだったとは。恥ずかしさと失望が入り混じった気分になる。しかし実際にこんな状況になっているのだ。ジーンの判断を責められはしない。
表には出さず葛藤するロッタを、ジーンは不安な表情で眺めていた。
「ロッタ、」
彼が眉尻を下げて彼女の名前を呼んだちょうどその時。
「てめえら、どこから出てきやがった!?」
大通りでは、体勢を立て直した強盗たちがリヒトルーチェの私兵を警戒するように彼らを取り囲んでいた。先ほど棍棒が振り下ろされた際に聞こえた鈍い音は、
「ジーン、この話はまたのちほど。先ほどから違和感を持っていたのですが、あの強盗たちはやはり
「本当か? しかし、彼らのような人間が簡単に手に入れられるものじゃないだろう」
ロッタは深くうなずく。
「しかし先ほどの防御魔法は魔法護符によるものです。彼ら自身が魔法を使えるわけではないでしょう。その証拠に、彼らは魔法で結界を破ろうとしていません。……あっ、今も、防御魔法が」
テラスから眺めていると強盗たちの様子がよくわかる。私兵たちとの力量の差は歴然。棍棒と短剣とはいえ、それで覆せないだけの武技の差があるのは誰から見ても明らかだ。しかし強盗たちは一向にやられる気配を見せない。正確には、私兵たちの攻撃が当たっていないのである。
「物理攻撃に特化した魔法護符か」
「そのようです。ジーン、それなら」
「ダメだ」
ロッタがすべて言い終える前に、ジーンは強く遮った。彼女は一瞬面食らったあと、ムッとして口を結ぶ。そして再度彼に言い募ろうとしたが、口を開く直前、蛇に睨まれた蛙のように身体を硬直させた。