20話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大通りの向こうで人が一斉にざわついた。
ジーンを見つめていたロッタは、騒ぎのした方に思わず視線を移す。人ごみのせいで何が起こっているのか分からない。彼女は首をのばして、真剣に目を凝らす。
もう一度人がざわついたかと思うと、今度はたむろしていた群衆が、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。先ほどまで人で埋め尽くされていた大通りは、ロッタの目にも明らかなほど人が減っていた。
「おい、これで本当に全部だろうな?」
彼女たちがいる店の斜め向かい、宝飾品を扱う店から、贔屓目に見ても上品とは言い難いガラの悪い大男が出てきた。彼は店の中にいる人影に向かって怒鳴り散らす。手には麻袋と……刃渡りの長い短剣が握られていた。
「はい! 金目のものは全部詰め込みました!! さっさとズラかりましょうぜ」
「ったくよおムダな抵抗しやがって、計画より時間くっちまったじゃねえか」
ガラの悪い大男を先頭に、四人の男が大通りに出る。全員が同じように麻袋と短剣を持っている。その光景を見れば何が起こっているかは一目瞭然だった。
(強盗……。まさか、豊穣祭期間中にそんなことするなんて)
ロッタは思わず立ち上がろうとするが、すぐに片腕を抑えられた。見ると、ジーンが厳しい顔をして首を振る。行くなということらしい。彼女は我に返り、身をかがめ、声を潜めて話しかける。
「ですが……」
「ここは西区だから、魔法師団の警護の範囲内だ。騒ぎを察知すればすぐに彼らがやってくるだろう。一旦盗まれたとしてもすぐに店に戻ってくる」
彼の説明を聞き、ロッタはようやく冷静になった。そういえばランデンがこの時期に王都に戻ってきた理由は、豊穣祭期間中の警護のためだった。クレセニア王国の魔法師団は軍の中でもエリート中のエリートである。街にはびこるごろつきなど、一瞬で片付けてしまうだろう。
しかしその事情を知っている人間は限られていた。宝飾店の店主は顔を真っ青にして強盗団の大男……恐らくリーダーであろう男にしがみつく。
「どうかその時計だけはご勘弁ください……! さるお方からの特注品なのです。他の物はいくらでも差し上げますから、それだけはどうかご勘弁ください……!!」
生活がかかっているのだろう、店主は必死の形相だった。あえて名前を出さないあたりが、相当身分の高い人間からの依頼であることをうかがわせる。
「これか?」
「はい! それです! それだけで構いませんから!」
男は麻袋の中から取り出した時計をまじまじと見つめる。そしてニヤリと口の端を曲げると、自分の腕に巻き付けた。
「そりゃあさぞ高値で売れるだろうなあ。そうと知っちまえば、なおさら返すわけねえだろうがバーカ」
がっはっはと下品な笑い声とともに、子分たちも同じように店主を罵倒する。店主は青白い顔をさらに青くして、彼の周りであざ笑う男たちを呆然と眺めている。しかし強盗たちが
「お願いします! お願いします!!」
「っるせえ! 殺されてぇのか」
「それを持っていかれては、どの道命はありません! どうかお願いします」
一向に引く様子のない店主に、子分たちはリーダーに目配せした。リーダーの男は大きな舌打ちをしたあと右手に持っていた短剣を振り上げる。
「じゃあさっさと死ね」
豊穣祭期間中の流血は最大の禁忌である。しかし強盗たちはものともせず、容赦なく刃物を振り下ろす。
どこからともなく悲鳴が聞こえた。