19話
夢小説設定
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「こんなペンダント、持っていらっしゃいました?」
いつも通り鏡の前でじっと動かず、メイドたちにされるがままになっていたロッタの目の前に、ミモザは細長い箱を傾ける。クッションが敷き詰められた箱の中には、しずくのような宝石のついたペンダントが鎮座している。見ているだけで吸い込まれそうな深紅の宝石は、小ぶりながら存在感を放っていた。
何気なくそれを目にした瞬間、ロッタの脳裏に今朝見た夢の断片がよみがえった。
「それ……」
「誰かからの贈り物ですか?」
「ええ」
影で顔の分からない女性。きらめく赤い瞳と同じ色のペンダント。夢で見たものと同じものが、今、彼女の目の前にある。
(きっとお母様からの成人祝いね)
非現実的な考えだったが、ロッタは自然とそう断言できた。
ミモザには分からないようだが、ペンダントにはわずかに魔法の跡が残っている。ロッタの知識では、『十八年後にある人にある物を届ける』というような大がかりな魔法は実現不可能なはずである。しかし過去にロッタの
「贈り物にしては年季が入っていますね」
「そうね。でも、大切な人からの贈り物なの」
詳細を話そうとしないロッタにミモザは何かを察したのか、それ以上追求することはなかった。代わりにペンダントをクッションから取り出し、ロッタの首元に合わせる。
「とってもよくお似合いですよ。お付けになりますか?」
「……いいえ、今日は止めておくわ。宝石なんて身に着けていたら、標的にしてくださいって言ってるようなものでしょ?」
茶化すような言い方に、ミモザは鏡越しにロッタと目を合わせて、ガクリとうなだれる。ペンダントを箱にしまいながら、だんだん完成していくお忍び姿を複雑な表情で眺めた。
「本当に、ほんっとうに、それでいいんですか?」
「どういうこと?」
「だって! せっかくの誕生日ですよ! それにせっかくジーン様がお時間を作ってくださるのに、『豊穣祭を体験してみたい』って、そんな願い事で……」
「だからいいんじゃない」
ですが! と、ミモザはなおも言い募る。普段から何かと意見することの多い彼女だが、ここまで渋るのは珍しかった。しかしそれにはれっきとした理由がある。
内部協力者としての裏方の努力が実を結び、ロッタの心がやっと傾いたと思ったのも束の間。なんとこのお嬢様は、豊穣祭の真っ最中、ムードの欠片もない街中で初デートを済ませようとしているのだ。もっとロマンチックな行先があるだろうと、夢見る彼女は思わざるを得なかった。
一方のロッタはお忍びの許可を得たときから、この日が来るのを心待ちにしていた。誕生日でなければエリックやミモザに阻まれて街に出ることすらもさせてもらえない。そんな中、以前から興味のあった豊穣祭に軽装で行かせてもらえるなんて、奇跡のような話である。
「ネグロ家所有の別荘に行って、豪華なドレスに食べきれないほどの料理、なんかすごい音楽を背景にして愛の告白っていうのが王道じゃないですか!」
けっこういい加減な妄想だったが、ロッタの支度をする年若いメイドたちも賛同するようにうなずいている。
「そういうのはこれからいくらでも出来るじゃない。それに、お祝いは帰ってきたあとに兄様が用意してるでしょ」
(というか告白……)
やはりそう思われているのだと、ロッタは途端に恥ずかしくなる。
夏以来、レングランドや王宮でジーンの姿を見かけることはあっても、話をする機会はなかった。大祭の式典が終わり一段落ついた今だからこそ、ジーンもロッタも時間が取れたのである。恐らく彼は返事を待っているだろうし、ロッタはすでに結論を出している。ただ一言『受けます』と言えばいいだけなのに、こんなに時間が経った今ではそれさえ勇気がいるのだった。
「はい。完成しました!」
メイドの声で現実に引き戻されたロッタは、鏡に映るいつもとは違う格好の自分と顔を見合わせて微笑んだ。
「すごいわ、完璧よ。こんな感じの人、街中にたくさんいると思うわ」
「そうでしょうか。確かに格好は完璧ですけど、こんな美人なかなか見かけませんよ」
「水を差さないで」
ふてくされ気味なミモザを横目で見る。しかし彼女は気にした様子もなく、ジーンが到着するまでずっと心配そうな顔をしていた。