15話
夢小説設定
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芝生の上で横座りになって無気力に庭園を眺める様子は、どう考えても作法通りではなかった。しかし彼女の悩ましげな表情とその内容は、ある意味年頃の娘らしさはある。
(知り合い、友人、尊敬する人……)
ロッタは適当に言葉を並べ立てたあと、緩く頭を振った。今日だけでもう数十回同じことを考えている。
エリックの書斎から出た直後、ミモザの返答を聞いてロッタは直感した。時折ジーンが浮かべていたあの顔は、好きな人が自分に憧れしか抱いていないのではないかという、複雑な感情を表していたのだろう。
(
さすがにあの状況で、あのセリフで、「まさかそんな……」などととぼけたことは言えない。夜会で最初のダンスの相手をするのは婚約者か恋人と相場が決まっている。もしそんな相手がいなければ、選んだ相手がその候補になるのだ。その中でもデビュー直後の令嬢の相手を務めるとなれば、最有力候補であることを堂々と宣言するも同じだった。
(憧れ、親愛、……好き? ……好きなの? 好きだけど!)
深みにはまる思考。その好きってなんだろう、などと、ものすごく哲学的なことを考えだしてしまう。
――君の心が欲しいんだ
ふと、彼の言葉がよぎった。愛しさを詰め込んだような優しい微笑みと、頬を撫でる手の感覚とともに。顔がカッと熱くなる。
(そんな目で見ないでください。慣れてないんです)
頭の中にいる彼から、ロッタは必死で目を背ける。
「ああああ……」
「ついに壊れたか」
頭を抱えながら小声で身もだえていたロッタは、斜め上から聞こえてきた声に、バッと顔を上げた。
「に、にいさまぁ」
「情けねえ声出すな。ついでにそのツラも止めろ。溶けた氷みたいな格好しやがって」
不機嫌を隠そうともせず、秋をとばして冬が来たのかと思うほど冷たい視線が懐かしい。彼の基準では、声も表情も格好も不合格なようだった。魔法師団の制服を着替えていないところを見ると、本当にたった今帰ってきたようだ。
「おかえり、ランデン兄様」
「ん」
「待ってたの」
「どうせロクな理由じゃねえだろ」
バレている。殊勝な態度で言ってみたつもりだったが、それがなおさら不信感をあおっていた。恋愛相談、などと言えば、さっさと屋敷に入って着替えて出かけてしまうこと請け合いである。ロッタはベタな作戦に出ることにした。
「あのね、わたしの友達の話なんだけど、社交界デビューのときに最初のダンスを踊ってくれないかって、とある人からお願いされたらしくて。でも、その人はずっと友人というか、憧れの人というか、微妙な関係だったの。だから、どうすればいいのか分からない……っていう相談を受けたのよね」
「ふーん」
「ちょっと兄様真面目に考えて。どうすればいいと思う?」
「相談相手間違ってるだろ。兄上にでもしろよ」
エリックでも、絶妙に間違っている気がする。ロッタは内心でそう思ったが、今にも立ち去ろうとしているランデンをすんでのところで捕まえる。
「……お願い。エリック兄様より、ランデン兄様の方がいいの」
彼女の手を引きはがそうとしていたランデンは、その一言に動きを止めた。眉を下げて懇願する妹をじっと見つめる。しばらく硬直状態が続き、ランデンはロッタの隣にドカッと腰を下ろした。
「なるほどな。何考えてるかわからねえ万年能面クソ兄上より、俺の方が頼りになるっつーのは、妥当な判断だ」
(そこまで言ってないけど)
ランデンのやる気を削がないように、心の声はそっとしまった。