13話
夢小説設定
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髪が首筋を撫でるような感覚に、ロッタは身震いをして目を覚ました。湖畔にいるからか思ったよりも風が強い。まだ完全に覚醒しきっていない意識に身を委ねながら、彼女は正面のアグラ湖を眺めた。
日の光を反射して水面が不規則にきらめく。近くには一艘の舟。ずっとずっと向こうの対岸には緑が広がっていて、まるでこちらを侵食しようと機をうかがっているようだ。
(そういえば、ハイキング……)
昼食を終えたら、丘に登ると言っていた、ような。
彼女は視線をゆっくりと近くに向けた。記憶通りブランケットが敷いてある。木陰に入るように敷いたはずだったが、時間とともに陰が移動していた。もう一度風が吹く。顔を背けたロッタの瞳に、キラキラと輝く人が映った。風が金色の髪を揺らす。下を向いて、本を見つめる横顔。小さく上下する肩と、ページをめくる音。
ロッタは寝ぼけていた。頭の隅では寝ぼけていることを自覚していた。それでも、手を伸ばしてみたいと思った。ためらいがちに、だけど真っ直ぐ――
「寝ぼけてるのかい、ロッタ」
ぱしっ、と右腕を掴まれて、いつも通りの微笑みを向けられたとき、彼女の意識は完全に覚醒した。ジーンの読んでいた本がパラパラと音を立てて閉じる。しかし彼は気にせずにロッタを見ていた。
「覚めました。今ので、完全に目が覚めたので、す、すみません、つい」
「つい?」
「きれいだったから……」
彼女の言葉とともに沈黙が訪れた。呆然とした様子で、ジーンは掴んでいた腕を離す。同時に言った張本人であるロッタも目を丸くした。本音がダダ漏れである。すぐに耳が熱くなる。この避暑地では、真っ赤になっているであろう彼女の顔を、暑さのせいにすることはできなかった。
ロッタは必死に考えた。『きれいだったから』に続く、上手い言い訳を。しかし案の定、何も出てこなかった。沈黙に耐え切れず、頭に浮かんだことをそのまま口に出す。
「最初にお会いしたときからずっと、眩しい方だと思っていたんです。綺麗というのは、その、言葉のあやというか……。容姿だけではなくて、お人柄も……決断力があって、責任感の強いところも、もちろん尊敬しています!」
ダメだ。墓穴を掘っている。言えば言うほど気まずさが上がっている気がする。そもそも初対面の出来事を覚えているのは、さすがに引かれたのでは。
レングランド学院を見学に訪れ、ランデンを見つけられず途方にくれていたときに、たまたま顔を合わせただけの何気ない一場面。しかしロッタにとっては印象に残る瞬間だった。キラキラしたオーラを放つ、物語の騎士か王子様みたいな人。リヒトルーチェ公爵の嫡子だと紹介されたときには妙に納得したものだ。
恐る恐るジーンをうかがうと、彼は困ったような顔をしていた。
思いがけない言葉を聞いて、返答に迷っているような顔。言うべきではなかった。彼女の頭に後悔がよぎる。ロッタは、そっと彼から視線を外した。
「みなさんはハイキングに行かれたんですか?」
「……ああ。私たちも追いかけようか」
ロッタがうなずくのを見ると、ジーンは別荘の使用人に連絡をして、昼食に使ったバスケットとブランケットを片付けるように指示を出した。さあ、と言って自然に差し出される片手を、彼女は穏やかでない気分で取った。