12話
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「知っての通りクレセニアには大きく分けて二つの派閥がある。俗に言う国王派と王妃派だな。最近王妃派は反国王派とも言うが、どちらにせよリヒトルーチェとネグロが異なる派閥に属しているのは周知の事実だ。しかもどちらも筆頭に近い家門だ」
リュシオンはここで一旦言葉を切った。主にルーナに視線を送り、話に付いてきているかを確認する。彼女は無言でうなずいた。
「恋愛、まあはっきり言うと結婚だな。そこに至るまでに一番問題になるのが両家の関係だが、王妃が大人しくなった今、攻略は可能だ」
「うん…………ええ!?」
うつむいて深刻な表情をしていたルーナは、リュシオンの言葉にうなずいた後、奇声を発して彼を見た。予想通りの反応にリュシオンは苦笑する。
「え、今なんて?」
「可能だと言ったんだ。面倒な印象操作と手回しが必要になるがな」
「政略結婚、ですか」
カインが小さく呟いた言葉に、彼は「ああ」と返事をした。妙に納得したようなカインとは裏腹に、ルーナは頭に疑問符を目一杯浮かべて二人を交互に見る。「説明して」という彼女の催促にリュシオンは応えることにした。
「貴族の結婚はいまだに家門の利益や繁栄のための政略結婚が主流だ。リヒトルーチェ夫妻やエストランザ夫妻のように完全な恋愛結婚が珍しいのは分かるな?」
「うん。生まれたときから相手が決まってるとか、結婚した後に仲良くなるとか、そういう関係も多いんだよね。というかロッタも元はユリウス王太子の婚約者だったわけだし」
「そうだな。だがリヒトルーチェやネグロのような派閥の筆頭家門になると、政争の終結や和解のための結婚という意味も含んでくる。そこに抜け道があるというわけだ。もちろん王妃派のもう一つの筆頭であるベルフーア公爵は大反対だろうが、あいつもなぜか領地に帰ったしな。やるなら今、といったところか」
アマリーの婚約式で王妃は魔物を会場に放つという、悪逆極まりない計画を実行した。国王やリュシオン、リヒトルーチェ公爵は、それを利用して王妃派の力を削ごうと考えていた。しかしその後、王妃は自ら謝罪したことで難を逃れたのだ。それと時を同じくしてベルフーア公爵が中央から去り、現在の王妃派は事実上エリックの支配下にある。
エリックは貴族中心の保守派に属しているが、王妃やベルフーア公爵のように実情を鑑みない主張はしない。むしろ『伝統・制度の保守』という思想は、貴族だけでなく下位地主階級の人間や資産家などにも受け入れられていた。ある程度の譲歩と中・上流階級への根回しによって、国王派と呼ばれる革新派が動きづらくなったのは言うまでもない。
「エリック・ネグロ。あいつは本気で面倒くさいやつだが、はっきりとした欠点もある」
「そっか。それが、ロッタってことだね。もしジーン兄様がロッタと結婚すれば、エリック様はそこそこ譲歩してくれる可能性が高いし、周りから見ても和解したって思われて一石二鳥……。……うわぁ」
「本音が出てますよ、ルーナ。気持ちは分かりますが」
「こればかりは仕方ない。本人たちが恋愛でも、周りに示すときには大義名分が必要なんだ。逆に馬鹿正直に恋愛だと言った場合、両家ともに付け入る隙を与えることになる。政治に関わっているという点で言えば、ジーンの方が被害が大きいだろうな」
エリックは絶対にしないだろうが、ネグロに連なる人間は、ロッタを囮や駒に使おうと考える可能性がある。逆にジーンも簡単には引っかからないだろうが、過去に色恋沙汰や愛する女性のためにと身を落とした貴族は数えきれないほど存在する。
「しかしロッタはそれでいいんでしょうか。愛しているが世間体としては政略結婚、しかもものすごく分かりやすい使われ方です、と言われて喜ぶ令嬢はいないと思うのですが」
「たしかに」
ルーナは自分の両親や姉夫婦の結婚が、いかに恵まれていたかをしみじみと理解する。立場が違えば恋愛一つとってもここまで苦労しなければならないのだ。
カインのもっともな指摘にルーナが不安を募らせる一方で、リュシオンは二人の結末を確信していた。驚くべき忍耐力と行動力を発揮するジーンを、彼は一番近くで見てきたのだ。正直、負ける気がしない。
「ルーナ」
ほとんど一年に渡って二人の恋愛を応援し続けたキューピッドに、先に結末を教えてやるくらいはしてもいいだろうと、彼は思った。