11話
夢小説設定
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ようやくハンモックを片付け終わったユアンが、ルーナの隣に腰かけた。
「じゃあお昼ごはんにしよっか」
ルーナの視線の方向には大きな木製のバスケット。その中には、ブランケットと、彼女の考案した様々な料理が入っている。早朝からピクニックの昼食として使用人とともに作ったのだ。ちなみにロッタは手伝おうとして、あまりの包丁さばきのぎこちなさに、早々に裏方に回された。皿洗いやあと片付けは上手かった。
「すごいな。この量を作るの、大変だったでしょう」
「ううん。みんな手伝ってくれたから案外早く作れたよ。ロッタもお手伝いありがとね」
カインの言葉にルーナははにかんで返事をしたあと、ブランケットを敷いているロッタに声をかけた。かけられた彼女は顔を赤くしながら、「やめて。傷をえぐらないで……」とうわごとのように呟く。それを見て苦笑するルーナと、怪訝な顔をするその他の面々。
ルーナは今朝あったことをかいつまんで説明した。そもそも前世から菓子作りに親しんでいたルーナと、生まれてこのかた包丁どころか厨房で作業をしたことすらないロッタの経験値の差は明らかである。ルーナにとってはむしろ、裏方の仕事が板についていたことの方が驚きだった。しかしロッタに聞いても自覚がなさそうな顔をしていた。
「だから出発する前、少し暗かったのか」
「気づいてたんですか」
「何となくだけどね」
密かに落ち込んでいることを必死で隠していたつもりだったが、ジーンにはお見通しなようだった。ロッタは心の中でうなだれる。
「経験あるのみだよ。とはいっても、包丁って怪我することがあるから、中々許してもらえないかもしれないけど」
「反対勢力……」
「おそるべし反対勢力だね」
フレイルとユアンは同時に同じことを呟いた。
当初の予定では昼食後、リヒトルーチェ所有の舟でアグラ湖を渡り、ハイキングをすることになっていた。アグラの町とは反対側、湖の奥地は自然が豊かで、森に入ると見事な滝が、丘に登ると絶景が見られることでも有名だった。普段はちらほらと散策している人々も、今日は祭りがあるためほとんどいない。人の目に触れると何かと面倒な彼ら、彼女らにとってはまたとないタイミングである。
しかし、ルーナを始めとする面々は、ある一点に視線を向けていた。
「見事にぐっすりだな」
誰が見てもそう見える光景を、確認するようにリュシオンは呟いた。そこには木にもたれかかって休んでいるロッタの姿。早々に食べ終わった彼女は、談笑するルーナたちの話を聞きながらいつの間にか夢の世界に旅立っていた。
「すごく気持ちよさそうに寝てるし、起こすのも申し訳ないというか」
「だよね。声が聞こえないなーと思ったら」
「いや、ロッタがこういうときほとんど話さないのはいつものことだろ」
年少組が次々と言葉を発し、顔を見合わせる。特にルーナは、『ロッタとハイキングに行きたい、でもせっかくだし寝かせてあげたい』という葛藤が見えるようだ。
避暑に来てからのロッタは、今までの忙しさを補うように、何もせずテラスから外を眺めていた。暇なのではなく、それが彼女のくつろぎ方なのだろう。聞くと、ネグロ侯爵領では、勉強や兄たちとの遊び時間以外のほとんどをそうして過ごしていたらしい。アグラに訪れるのは初めてのはずだが、彼女はどこか懐かしそうだった。
木陰で思わず寝てしまうのも、普段の――王都にいる彼女では考えられないことである。
「……せっかくだしルーナたちはハイキングに行っておいで」
じっと彼女を見つめていたルーナの背後から、やんわりと勧める声がした。
「ジーン兄様」
「私はロッタが起きたら追いかけるから」
それは一見優しい提案でありながら、切実な願いだとルーナは瞬時に悟る。同時に事情を知っているリュシオンも、ジーンから視線を外して小さく肩をすくめる。
「じゃ、じゃあ、兄様にお願いしようかな? 幸い舟は何艘もあるわけだし」
キューピッド役発揮とばかりに、ルーナは一転してハイキングへの意欲を見せはじめた。ユアンとフレイルは彼女の言葉にうなずいて立ち上がる。しかしカインは、彼女の多少不自然な切り替えに怪訝な顔をした。
「カインも行こ?」
「ええ。そうですね」
引っ張られるようにその場を後にしながら、カインは残された二人をチラリとうかがう。ジーンは持ってきた本を取り出して読みはじめた。なんら不自然な行動はない。しかし……。
カインは身をかがめると、ルーナに小声で話しかける。
「そういえば舟は三人乗りでしたよね。ルーナ、いくつか質問があるんですが」
途端、『しまった!』と言わんばかりの反応をする彼女に、カインはある種の確信を抱いた。