11話
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避暑三日目の朝。
湖と同じ名前を冠するアグラの町では祭りが行われる。なんでも、年に一度、湖の水を神殿に捧げる儀式にちなんだ祭りらしく、多くの人間が神殿や町の中心に集まるようだ。リヒトルーチェの別荘はアグラ湖のほとりに位置するが、祭りが行われる場所とはそれなりに距離があり、その日はむしろ静かなくらいだった。しかし遠くから聞こえる喧騒がロッタに特別な日であることを伝える。
祭りにふさわしい快晴。一行はそろって湖畔に来ていた。青緑の芝生に座ってそれぞれ好きなことをしている。いわゆる、ピクニックだった。
「いいですね、お祭りって。豊穣祭のときもそうでしたけど、一度町中を歩いてみたいです」
「そうは言ってもだな。スリやぼったくり程度なら笑い話だが、誘拐にでも遭ってみろ。今度は中止どころの騒ぎではすまないぞ」
リュシオンは暗に前回の大祭のことを言っていた。あのときは幸か不幸か雨天中止として処理できたため、花姫誘拐騒ぎがあったことはごく少数の人間しか知らない。
「そもそもロッタって、普段からお忍びとかするの? しそうなイメージが湧かないけど」
ユアンが近くの木に結び付けたハンモックの紐をほどきながら、振り返ってそう言った。彼は揺れながら眠るのがすっかり気に入ってしまったらしい。午前中はルーナからハンモックを借り受けて、景色の良いところを探しては休憩を取っていた。
「実を言うと、ほとんどしないのよね。反対勢力が大きくて」
「反対勢力か。エリック様か?」
「うん……。だけどそれ以前にミモザが大反対で。あ、フレイルは知らないわよね、ミモザはわたし付きのメイドなんだけど」
なるほど、とフレイルが呟く。
「それで、そのメイドに大反対されて押し切られてるのか」
「わたしは分かるよ。『いけませんお嬢様! 外にはそれはもうウヨウヨと、お嬢様を付け狙う悪い輩がたくさんいますからね。御用があれば招きますので、屋敷からは出ないでください!』みたいなこと、言われてるんでしょ?」
「ルーナ、まるで見てたみたいにそっくりよ」
「えへへ」
ルーナの人間把握力に素直に驚くロッタに、フレイルとカイン、リュシオンはそろって微妙な表情を向ける。この三人はミモザに会ったことがなく、お嬢様とメイドの関係としてそれはどうなのかと言いたげだった。一方ミモザに直接会ったことのあるリヒトルーチェの兄妹たちは、彼女の言動のすべてがロッタを思うゆえであることを理解していた。ジーンやルーナにとっては良き協力者であるため、なおさら高評価なのである。
「だけどわたしはアグラのお祭り、行ったことあるんだ。ね、カイン」
「そうですね。今回みたいに避暑でここを訪れたとき、ちょうど祭りの時期でしたから。ルーナが駄々をこねて行くことになりました」
「そ、そんなに言ってないでしょ。母様が父様を説得してくれたから……」
駄々をこねたこと自体は認めているのか、語調は限りなく弱かった。ルーナは気を取り直すように軽く咳ばらいをする。
「説得は難しいかもしれないけど、そこはエリック様のお墨付きとかがあれば、ミモザも納得するしかないわけだし。協力するよ、ロッタ!」
「ありがとう。むしろ一旦外に出てしまえば過保護もなくなると思うの。<変化>とか使って姿を変えるでしょ。乗馬もできるし。あとは気配を消して……」
「おいそれはやめろ。屋敷中大騒ぎになるぞ」
「エリック殿からもランデンからも怒られるよ」
「……冗談ですよ」
黙って聞いていたリュシオンとジーンがすかさず反対した。この様子では、かつてネグロ侯爵領にいたとき、人目を盗んで下町に遊びに行っていたなどとはとても言えない。