10話
夢小説設定
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「珍しい組み合わせだな」
そのときテラスに新たな声が聞こえてきた。ロッタが顔を向けるとそこには、面白そうに二人を見るリュシオンとジーンが立っていた。彼らは普段の堅苦しい衣装からは想像できないほど楽な格好をしている。
「逆に二人はいつでも一緒にいますね。仲がよろしいことで」
「からかうな。階下でたまたま一緒になっただけだ」
リュシオンは近くにあった椅子を引き寄せ、彼女たちの正面に座る。それに倣ってジーンも腰かけ、四人は円を描く形で向かい合った。
「それで、何の話をしていたんだい?」
「ユリウス王太子殿下の話です」
「どういう話の流れだ?」
「ロッタが兄上と今でも文通を続けているらしいので、その件について話していたんですよ。レングランドの話をしているそうです」
「あ、ですが、重要な情報は漏らしていませんよ? ただレングランドがとても充実した施設だという話をさせていただいただけで……」
カインの言葉に捕捉するようにロッタは慌てて付け足した。研究内容によっては門外不出の場合もあり、むやみに外部の人間に漏らしてはいけないことはよく分かっている。彼女が手紙に書いたのは、実際にレングランドを訪れたらすぐに分かるような部分だけで、国の損失になるようなことには一切言及していなかった。
「そんなことは言われずとも分かっている。いやそうじゃない。ユリウス王太子と文通? 初耳だぞそれは」
「確かに申し上げてはおりませんでしたが」
「それってもしかして、エアデルト訪問以来ずっとかい?」
「ええ。季節ごとにいただいています」
あっさり肯定した彼女に二人は頭を抱える。個人間の交流だ。特に問題はない。しかし相手が相手だ。言葉を失った彼らを放ってカインは話を続けた。
「逆に兄上からはどのような手紙が送られてくるんですか?」
「そうですね……。ほとんどがエアデルトの文化や歴史のことについてです。時折政治の話もなさいます」
彼女は斜め上を見ながら思い出す。文化については、ネグロ侯爵家で親しんでいたこともあり、話に付いていけることが多かった。しかし歴史や政治の話は流石に範囲外であるため、分からない部分はわざわざ書簡貯蔵庫まで行って調べているのだ。
「これはわたしの勝手な想像なのですが、もしかしたら殿下はお立場とは関係なく、元々歴史や政治がお好きなのでは? どのような質問でも丁寧に説明してくださいますし」
「言われてみればそんなところはあるかな。しかし、兄が申し訳ない。それではまるで文通というより講義です」
カインの例えは言い得て妙であり、彼女は声を出して笑った。
「なあそれ、読んでて楽しいのか?」
今一つ腑に落ちないというように、リュシオンは不躾にロッタを眺める。普段から政務に追われている立場だからだろう。文通まで政治のことを考えたくないという思いが見て取れた。
「もちろんです。リュシオン様やジーン様は普段からそればかり考えていらっしゃるのでうんざりするでしょうが、わたしは時折ですので。それに、わざわざ面白い話題をお選びになっているような気がします」
「ロッタが楽しいならいいんだけどね。だけど、嫌になったらカインに言うんだよ」
「ぜひそうしてください。兄にもしっかり言い含めますので」
やはり二人は納得していないようだ。相手がエアデルトの王太子だから我慢しているのではないかと、疑うような素振りを見せる。ロッタは苦笑しながら、柵の外に目を向けた。
「あ、ユアンが起きましたね」
「『ハンモック』か。あれはいい。特に晴れた日の朝にはよく眠れた」
「でしょうね。つついても起きませんでしたし」
「おいジーン、そんなことしたのか」
「冗談です」
二人のテンポのいい掛け合いに、ロッタとカインは自然と笑顔になった。